CASE 3 東京急行電鉄 自社のDNAの理解に加え、生活習慣や学ぶ習慣も身につく 共に生活し、共に学ぶ全寮制生活で “連携する力”を高める
東京急行電鉄では、人材育成のために、大卒・大学院卒の総合職新入社員に対して、約1年間の全寮制生活を義務づけている。
寮生活は2人1部屋を基本とし、さまざまな職場での業務研修と併せて、木曜の夜には集合研修を行う。一見窮屈にも思えるこの生活は、
意外にも新入社員に好評だという。
50 年以上続く伝統の寮で、若者たちは何を学び、どんな習慣を身につけるのか。
●基本的な考え方 50年以上続く伝統の全寮制
東京都世田谷区―。閑静な住宅地に、東急電鉄の新入社員寮「慎独寮」はある。同社の大卒・大学院卒総合職の新入社員は全員、約1年間にわたり、この寮で共同生活を送る。
寮の歴史は古く、開設されたのは五島昇氏が社長職に就いていた時代。1963 年から、総合職新入社員全員を入寮させる全寮制教育が始まり、今に至っている。
「『事業の発展の基礎は人である』という経営者の考えの下、全寮制生活、業務研修、木曜講座という形式で、入社1年目にしっかりと育成する方針です。全寮制生活の中で、仲間との絆が深まり、コミュニケーションや連携する能力も高まります。特に当社はグループ企業を含め事業が多岐にわたりますので、初期の段階で、こうした能力を培えるようにしています」(人材戦略室 人事開発部 ダイバーシティ・キャリア開発課 課長 野津牧子氏)
●新入社員教育の特徴 現場経験と集合教育で学ぶ
大卒・大学院卒総合職の新入社員は、例年、30 ~ 40人程度。2016 年度は、女性16人、男性22人を採用した。本配属は翌年2月で、それまでの1年弱にわたり、新入社員教育を行う。
■グループ業務を実践
特徴の1つは、現場での実践を重視していること。中心となるのは、自社またはグループ会社で実際の業務を経験する業務研修。期間・内容は年によって異なるが、基幹事業である鉄道の駅員業務のほか、グループ会社におけるスーパーの売り場づくり、ホテルのフロント、ケーブルテレビの営業などを、約半年ずつ、1人2カ所経験する。
「現場の最前線でお客様に接し、顧客視点を学びます」(野津氏)
「東急グループにはいろいろな事業があり、さまざまな働き方があることを知ってもらい、視野を広げる意図があります。そのため、多種多様な企業を選び、バラバラに配属しています」(人材戦略室 人事開発部 ダイバーシティ・キャリア開発課 主事 西本遊氏)
現場での指導の仕方は、会社や業務によって異なるが、例えば営業であれば、最初は先輩がついて顧客先を回り、独り立ちさせるところまでサポートを行う。駅員業務でも指導係として先輩社員をマンツーマンでつける。
■2人1部屋が基本
これと並行して、新入社員教育の柱と位置づけているのが、全寮制生活と、その寮で行われる「木曜講座」である。
寮の居室は、男性スペースと女性スペースに分かれ、その間に談話室や食堂などの共有スペースがある。男性スペース、女性スペースとも、異性の入室は禁止。女性スペースにも談話室はあるが、共有スペースで過ごす時間は長く、男女とも仲が良い。
男性は全員、2人1部屋の相部屋。女性は、建物の制限があって1人部屋もあるが、なるべく相部屋にするようにしている。ここ数年は、4カ月に1回、部屋替えをしており、男性の場合、退寮までに3人のルームメイトと同じ部屋で寝起きすることになる。女性にも、必ず1回は2人部屋を経験させる。
「多様な価値観に触れてもらうために、あえて2人部屋にし、定期的に部屋替えを行います。業務研修の派遣先でも、違うメンバーと組ませるなど、多くの人と触れ合えるように工夫しています」(西本氏)