SPECIAL COLUMN 前ラグビー日本代表メンタルコーチが教える 行動の定着化を図る“考える”習慣
スポーツの世界、特にチーム力が問われるような競技では、個々の選手の望ましい習慣が試合結果にも良い影響を与えているようだ。
彼らはどのようにして“良い習慣”を身につけているのか。
2015 年のワールドカップで活躍した、前ラグビー日本代表メンタルコーチに、新入社員にも行える“ 習慣づけ”のヒントを聞いた。
五郎丸ポーズは習慣化に有効か
2015年9月、日本中を興奮の渦に巻き込んだラグビーワールドカップ(W杯)。これまでのW杯を通算しても1勝しかしたことのない日本代表が、予選リーグでは数々の強豪を相手に3度の勝利をもぎ取った。目標のベスト8入りは逃したものの、これまでラグビーにさほど興味のなかった人たちにも存在感を示した。
中でも注目を浴びたのは、キッカーを務めた五郎丸歩選手がキック前に常に構える独特のポーズだ。ボールを置く動作、ゴールポストまでの距離を測る時の構えなどいつも同じ動きをすることで、助走の歩数などをそろえ、キックの成功率を高めていた。あの一連の動作の開発をサポートしたのが、日本代表チームのメンタルコーチを務め、現在は園田学園女子大学で教鞭をとる荒木香織氏だ。
「あれはプレ・パフォーマンス・ルーティンといわれる、メンタルスキルの一種です。五郎丸選手の場合は、キックの際に生じるであろうさまざまな雑念を取り払うために行っていました」(荒木氏、以下同)
プレ・パフォーマンス・ルーティンには、「動作に集中することで歓声などの外的な障害や不安などの内的な障害をシャットアウトする」「プレーを修正しやすい」「ストレスの軽減」といった効果が期待できる。
ということは、もしプレ・パフォーマンス・ルーティンを職場に導入すれば、新入社員にとって望ましい仕事の仕方や生活態度の習慣づけにも効果が期待できるのでは?
「残念ながらそれはないですね。プレ・パフォーマンス・ルーティンは、スポーツの試合などとっさの場面で、瞬時に集中して結果を出さなければならないような時に効果を発揮します。日常生活では、そこまで極端に成果を上げなければならない状態に追い込まれることは、まずないでしょう」
プレ・パフォーマンス・ルーティンを用いるには、
・ 止まっている対象物にアプローチする
・ 制限時間がなく、自分で時間をコントロールできるという、2つの条件を満たしている必要がある。その点、私たちがこなす仕事は、相手や状況に応じて常に変化するものが多い。
また荒木氏と五郎丸選手は、あの動作を完成させるまでに3年半の月日を費やした。そういう意味でも、プレ・パフォーマンス・ルーティンを日常生活に取り入れるのは現実的ではないようである。