OPINION3 できたことの見える化と共有で自信を深める 生活習慣のセルフケアで 自己を認め、受け入れる力を育む
最も身近な習慣づくりに、「生活習慣」が挙げられる。
食事、運動、睡眠が健康に大きく関わることは周知の事実だ。
だが、生活習慣の習得は、その人の社会性、さらには人との関わり方にも影響するという。
よい生活習慣の身につけ方とは。また、それを入社時の教育に活かすには。
生活習慣指導の有識者に、話を聞いた。
自己肯定感にも関わる生活習慣
―お2人は、学校や施設など地域保健に関わる人材の育成と、現場における保健教育の研究を重ねていらっしゃいます。なぜ教育の現場では、生活習慣の指導を行うのでしょうか。
坂田 由美子氏(以下、坂田氏)
2つの理由があるといえます。1つは予防医学における一次予防(疾病の発生そのものを予防し健康を増進すること)のためです。生活習慣病をはじめとするさまざまな疾病には、子どもの頃から根づいた生活スタイルが大きく影響します。不規則な生活は病気の原因にもなりますし、また、いざ病気になって食事の見直しや運動不足の解消を迫られた時、人はそう簡単に1日の過ごし方を改めることはできません。正しい生活習慣の習得は、健康面でとても大切だといえます。
もう1つの理由は、セルフケア能力を育成するためです。これは、自律やセルフコントロールとも関係が深いものです。生活をコントロールすることは、勉強や仕事など「目標や課題と対峙し、やり遂げること」と共通するところがあります。また対人関係など、自分の思い通りにはいかない状況下で良好な関係を築いていくためにも、セルフケア能力は必要になります。
―「ただ健康に過ごすこと」だけが生活習慣の目的ではないのですね。
高田 ゆり子氏(以下、高田氏)
学習指導要領の保健の教科では、小学校のうちは規則正しい生活習慣を身につけることを通じて、心身を豊かにすることを目的としていますが、中学、高校と進むにつれて、他者や社会と自分自身との関わり、また生涯における健康課題などを学ぶように設定されています。
もし、望ましい生活習慣が身についていない場合、生活習慣病のリスクが高まるだけではなく、自分に自信がなく自己を受け入れられないという社会的な問題にもつながります。
坂田氏
生活習慣に問題がある人は、「セルフエスティーム」(自己肯定感)が低い傾向にあるといわれています。セルフエスティームとは、ありのままの自分を認める力であり、人が生きていくうえで最も大事な土台となるものです。日本語では自己肯定感と訳されることが多いですが、自分を正当化するというのとは違います。長所も短所も自分の一部であることを受け入れる、といったイメージです。
セルフエスティームの向上には、「セルフエフィカシー」が影響すると考えられます。セルフエフィカシーとは、ある行動について「自分にもできる」という自信のようなものです。ですから「歯を磨く」「朝食を決まった時間に食べる」といった小さな成功体験によりセルフエフィカシーを積み重ねていけば、生活習慣を整えると同時にセルフエスティームにも良い影響を与え高めることができるのです(図1)。
もし、セルフエスティームが低い状態が続くと、自分自身を客観的に評価できなかったり、他者を受け入れられなかったりすることが考えられます。これは社会の一員として生活を営むうえで大きな支障となりますから、望ましい生活習慣を身につけるというのは、重要なことなのです。