巻頭インタビュー 私の人材教育論 患者さんファーストの構想力で 世界に挑むイノベーター集団をめざす
2014年に画期的ながん治療薬「オプジーボ」を世界に先駆けて発表した小野薬品工業。
その後、薬価の緊急引き下げによる影響を受けながらも、売上規模は2017年3月期予想で前期比50%増の約2400 億円を見込む。
企業買収を繰り返し巨大化を図る同業が多い中、同社は独自の戦略に基づき着実な成長をめざす。
その鍵を握る人財育成について、相良暁社長に聞いた。
質の勝負に徹し成功確率を高める
―「新薬に特化した研究開発事業」という独自路線を貫いてこられました。成功率が極めて低いとされる新薬事業にこだわり続けてきた理由をお教えください。
相良
中堅の製薬会社は、大手のように幅広い分野の製品をつくることはできません。限られたリソースをフル活用するために新薬分野に集中し、開発の成功率を高める戦略を採っています。
とはいえ、新薬開発の成功率は低く、業界団体の統計によれば、新しい化合物を3万個ぐらい開発して、その中の1個が薬として世に出るぐらいのレベルです。また、新薬の開発コストは上がり続けており、今では新製品を1つ出すために必要な費用は数百億円、製品によっては1千億円以上かかる場合もあります。そんな中で世界的なメガファーマと戦っていくには、成功確率を高めると共に、新薬開発のコストの削減を図っていくしかありません。研究段階での質を高め、開発から販売に至る全てのプロセスにおいて、規模ではなく質の勝負に徹する。その典型的な成功事例が、抗がん剤ニボルマブ(商品名:オプジーボ)です。
―貴社と米ブリストル・マイヤーズ スクイブが共同開発したがん免疫治療薬ですね。免疫細胞の本来の力を発揮させ、がん細胞を攻撃できるようにするということですが、世界に先駆けてその実用化に成功され、日本では2014年9月から発売開始となりました。今後の展開についてはいかがですか。
相良
開発スタートから約20年。決してあきらめることなく、ついに上市にこぎつけました。現在は、適応がん腫の拡大、より有用性を高めるための併用療法の探索、より効果が期待できる患者さんへ投与いただくためのバイオマーカー※の探索など、価値最大化に向けて取り組んでいます。
※効果の期待できる患者を見極める生理学的指標。
―薬価制度の抜本的な見直しが始まることにより、医療品業界はどのような影響を受けるのでしょうか。
相良
ニボルマブの売り上げについては、2016年に決定した2017年2月からの薬価引き下げにより、影響を受けることになります。また、厳しさを増す医療財政から、薬剤費削減へ向けての制度改革も議論されており、業界を取り巻く環境はますます厳しくなっています。
しかし、製薬会社の成長余地が縮小するかといえば、それは全く違う。世界を見れば新興国など、薬の需要が増えていく地域がたくさんあります。日本においても、高齢者の医薬品ニーズはまだまだ増えます。何より製薬業は世の中から必要とされている事業です。事業環境が厳しいのは事実ですが、勝機もあります。
―今とこれからの経営課題と成長戦略は。
相良
まず、重要な経営課題としては「開発パイプラインの拡充」「海外展開の推進」「企業基盤の強化」の3つを位置づけています。
開発パイプライン(新薬候補となる化合物のラインナップ)についてはニボルマブが核となり、海外のベンチャー企業との提携活動が強化されるなど、着実に拡充は進んでいます。海外展開も、ニボルマブなどのスペシャリティ製品を中心に自社販売していけるよう、韓国と台湾に現地法人を設立するなど、アジアから取り組んでいます。欧米については臨床試験にかかるコストが大き過ぎるため、パートナーシップを組んで展開していますが、将来的には自社展開できればと考えており、海外での事業展開を見据えた人財育成を推進しています。
企業基盤の強化は企業として持続的に成長していくための最重要課題であり、グローバル展開のキーポイントでもありますが、これに関してはゴールのない取り組みだと考えています。
というのも、当社は長年、事業が国内だけで完結できていたために、採用は新卒のみとなり、単一の価値観に偏りがちでした。しかしグローバル企業として成長し続けるには、さまざまな人たちの価値観を受け入れ協働できる多様な人財を増やさなければなりません。そこで、ここ数年でキャリア採用を積極的に行い、300人超の人財を迎えると共に、管理職層をはじめ、各階層を対象としたダイバーシティ&インクルージョン研修にも力を入れています。