人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第53回 「ブラス!」川西玲子氏 時事・映画評論家
「ブラス!」
1996年 イギリス 脚本・監督:マーク・ハーマン
トランプ大統領の誕生で少し印象が薄れているが、昨年のイギリスのEU離脱は世界を驚かせた。私も驚いたが、EU離脱の始まりは80年代にあったのかもしれないと思う。
80年代のサッチャー政権時に、イギリスは変わり始めた。階級社会から、新しい格差社会に変貌したのである。中流出身でアクセントに苦労したサッチャー首相が、自助努力を説き競争を強化して、能力主義を社会の中心に据えたからだ。
北海油田が快調に稼働したこともあり、炭鉱労組とも徹底的に対決した。階級社会の中でも独自の位置を占めてきた炭鉱労組の文化は、この時に力を失ったのである。その様子を伝える映画が、しばらくして世界に届けられた。
その先陣を切ったのがこの『ブラス!』で、以後『フル・モンティ』(1997年)、そして以前取り上げた『リトル・ダンサー』(2000年)などが続いた。映画は時代の記録でもある。イギリスの失業映画は、社会が変貌していく様子を地域から描き、映画史に残る一分野となった。