TOPIC ATD 2016 JAPAN SUMMITレポート 激化するグローバル競争に 人材開発担当者は何ができるか
「ATD 2016 JAPAN SUMMIT」は、2014年よりATD(米国タレント開発協会)が日経BP社と共同で、日本で開催する人材開発カンファレンスである。
競争の激しい今日のビジネス環境に対応すべく、人材開発分野の著名人が最新動向やベストプラクティスをグローバルな視点で紹介した。
本稿では、カンファレンス内の3つの一般講演の内容を報告する。
(基調講演者のロバート・O・ブリンカホフ氏の内容については34ページに一部紹介)
【一般講演1】なぜグローバルな視点で人財開発を捉える際に学習の神経科学が不可欠なのか
【講演者】Neuro-Link社 CEO André Vermeulen氏
第4次産業革命を生き抜くには
私たちは今、第4次産業革命の入り口にいる。バーチャルリアリティや人工知能が人間の知能と統合し、私たちの仕事や生活を変えていく。2016年の世界経済フォーラムで発表された「2020年に身につけるべきスキル」の第1位は、「複雑な問題の解決」だ。より複雑化する世界に対して人材開発の専門家は、従業員にスキルを提供して企業をけん引する準備ができているだろうか。私たちが適切なスキルを与えることで、第4次産業革命を生き延びるだけでなく、革命の中で企業をさらに伸ばすことができるのだ。
私は南アフリカで18年間、トヨタと共に仕事をする機会に恵まれた。「学習する組織」というのが彼らの戦略の1つだ。第4次産業革命の中で成長するためには、学習する組織であるということは選択肢の1つではなくマストになる。例えばトヨタの場合、彼らは従業員に対して常にマルチスキルを求める。新しく入ったインターン生は、最初の18カ月は各部門の中で複数の仕事を覚え、トヨタのビジネスを理解する。常に学び、変化に適応し、新しいシステムや技術に自分や組織を合わせるためには、メンタルの柔軟性が必要であり、それを持ち続けることが競争力の源泉となる。
競合よりも早く学ぶことだけが、唯一の持続可能な競争優位性かもしれない。私たちは、競争力を保つためには人材開発が不可欠であることを認識する必要がある。
行動の基に神経科学がある
そこで役立つものの1つに、神経科学がある。職場環境を改善したり、パフォーマンスを最大化させたりするためにも欠かせない。将来的には全てが神経科学に結びつくだろう。
例えばこの青いペットボトルのキャップ。この青色を人が見た時、脳の中で10回ほどの異なる神経伝達が起き、その動きがペットボトルを購入するかどうかの判断に影響を及ぼす。こうした神経科学を学ぶことは、いずれビジネスにおいても必須になるだろう。私たちが日々行っていることは、そのほとんどが神経科学に基づいているため、人の行動を理解するためには、科学の機能や認知の仕組みを学ぶ必要があるのだ。
脳の働きを最大化する学習方法
脳には個人差があるが、共通する部分がほとんどだ。社員に文化や教育の違いがあっても、人間としての生物的反応は同じなのである。自動車メーカーで働く人と鉱山で働く人では睡眠のパターンが違うが、神経の動きは共通している。多様な国籍の人が一緒に働く企業では、神経科学を理解する重要性が増す。
では、神経科学を基に、どういった学習を行うべきなのだろうか。
まず、学習を義務化することが必ずしも効果的とは限らない。教育者が一方的に説明するような教育ではなく、学習者が自ら答えを探したくなるようなものであるべきだ。ソーシャルラーニングという言葉があるように、人から学ぶことも大切である。いずれにせよ、学習した内容が確実に脳に定着する方法を選ばなければならない。
学習環境が、脳に優しいかどうかも重要だ。例えば、トヨタは南アフリカのトヨタの研修施設の壁に同社を象徴するグレーと赤を使おうとしたが、グレーはグレーでも、アースカラーに近い色を使用することにした。白、黒、グレーは脳によくないが、緑やベージュなどのアースカラーは創造的なプロセスを促進するからだ。色や匂い、音は行動に影響を及ぼすため、職場の環境が学習に向いているかどうかも考えなければならない。脳に合わない環境で無理をすると病気になることさえある。