OPINION1 行きつ戻りつ進展するデジタル化 学校教育の実践から考える デジタルとアナログの活用法
日進月歩の技術革新でタブレットやスマホ等のデジタル機器が身近となり、
学習におけるスピード向上や効率化の面から学校でも活用が模索されている。
だが学びの過程では、いまだにアナログ作業が重視されているのも事実だ。
学習においてデジタルとアナログはどう使い分ければいいのか。
教育方法を研究する藤川大祐氏に、学習におけるデジタル活用の考え方を聞いた。
フローとストックの関係性
2016 年3 月まで、東京都文京区の「タブレット端末を活用したICT(情報通信技術)教育モデル事業」に指定された区立湯島小学校等と共同で、学習場面におけるICTの効果的な活用を研究していた。湯島小学校でも、デジタルとアナログをどう使い分けるかについてかなり議論したが(図1)、現状では「フローにはデジタル、ストックにはアナログが向いている」との結論に落ち着いた。
瞬時に大量の情報を流し、処理する場面(フロー)には、デジタルが向いている。だがその情報は瞬間的に記憶から消えやすい。一方で、授業で学んだことをまとめて振り返る、漢字を覚えるなど(ストック)には、手書きのノートや黒板が役立つ、ということである。
動画や写真を撮影して共有するという点では、デジタルが断然有利だ。学校の教科では、理科実験の再現性や、体育の客観性などで特に効果的な活用が見られた。
理科では、例えば水を模型に流して川の流れ方や土地の削られ方を実験する場合、全く同じ結果を再現するのは難しい。だが動画に残すことで、同じ場面で停止したり、何度も確認したりできる。
球技や跳び箱などの器械運動でも、フィットネススタジオのような鏡がない体育館や運動場で、自らの動作を客観的に見て、細かく修正することが可能になる。
仮想的な時間・空間を共有
デジタルの導入が最近注目されているのは、特別支援教育などの障がいを持つ子どもへの支援や、外国語を母国語とする子どもへの教育など多言語化が求められる場面だ。視覚・聴覚障がい者向けの音声・文字情報の追加は分かりやすい。また知的障がい者向けにも、学校と家庭間の連絡にいわばデジタル連絡帳としての録音機能を使えば便利である。
過疎地で児童・生徒の少ない学校同士をつなぐ授業や、入院中で極度の感染予防が必要な生徒と教師をつなぐなど、遠隔での学習支援にもデジタルは適している。
つまり、時間・空間を共有するバーチャルな場づくりに、デジタルは機能を発揮する。全国展開する企業やグローバル企業などは、拠点をつないで同時にコミュニケーションをとる際、デジタル技術が欠かせないだろう。
ただ意見集約型の授業では、向き、不向きが分かれる。大学の私の授業では、構成や文章を考える、イラストを描く……などと皆で分業し、共同で作業を進めるため、1 人1台のタブレットの準備が必須だ。クラウドを使った同時進行での文字入力はデジタルが向いている。だが、顔を突き合わせて議論し、それぞれが出した意見を1 つにまとめる場合、企業でも付箋を使って模造紙に貼るなど、アナログが今でも大きな意味を持つ。