巻頭インタビュー 私の人材教育論 皆の思いと能力を引き出す 仕組みづくりが人事の役割
「バリューチェーン・イノベーター」を標榜する技術者派遣会社VSN。
派遣したエンジニアが、現場での技術サービスの提供にとどまらず、そこから1歩踏み出し、派遣先が抱える事業課題の発見・提案から改善策の実行までを行う独自のサービスを展開している。
顧客のニーズを汲み、期待値を超えて貢献できる“ 人財”をどう育てているのか。
「人財育成は自社の存在意義」と言い切る川崎健一郎氏に話を聞いた。
バリューチェーン・イノベーターとは
―まず、御社の事業の特徴を教えてください。
川崎
当社は技術者派遣に特化した人材派遣会社です。派遣の仕組みには有期の登録型派遣と無期雇用型の派遣があり、当社は後者です。当社の正社員として雇用したうえでお客様先に派遣します。事業の特徴としては、「バリューチェーン・イノベーター」という、一般的なエンジニア派遣会社が提供しない独自のサービスを行っている点が挙げられます。
2010年までは、当社も普通の派遣会社でした。お客様先に技術者を派遣し、指揮命令を受けて技術サービスを提供する。良くも悪くも指示範囲からはみ出さず、指示されたことをきっちり行う役割です。
しかし、リーマンショックを経て事業の在り方を見直し、それまでになかったサービスを生み出しました。
バリューチェーン・イノベーターとは、技術者として技術を提供しながら、それだけにとどまらず、お客様の事業課題を自ら発見・提言し、主体的に解決していくというものです。コンサルテーション的な問題発見・抽出や、解決のためのソリューション提案をし、さらにはその実行まで行うことが、他にはない、VSNだけの強みです。
同サービスをスタートさせてから昨年までの5年間で400 件を超える実績があり、中には、派遣先のお客様の売り上げ向上に、数億円レベルで寄与した案件や、当社の提案を全社目標に設定いただいた例もあります。
不況でも必要とされる人の特性
―派遣エンジニアといっても、求められる技術を提供して終わり、ではないのですね。
川崎
この事業コンセプトは、社員が考え出したものです。営業、エンジニアなど各分野のエース社員16名を集め、彼らだけで検討してもらいました。テーマはただ1つ、「我々は何屋になるのか」。8カ月間に及ぶ議論の末に生み出されたのが、バリューチェーン・イノベーターのコンセプトです。
きっかけは、リーマンショックでした。景気が悪くなれば、派遣契約更新のハードルは高くなります。御多分に漏れず、当社も多くの社員が契約終了となりました。ところが、そういった状況下でもお客様から契約の継続を望まれるエンジニアがいました。彼らより技術力の高いエンジニアがどんどん解約されているのに、です。
理由を探る中、ある共通項に気づいたそうです。それは、彼らが技術提供だけでなく、お客様先の課題を主体的に発見して解決策を提案し、実行していたことです。そのことで、もはやお客様にとって事業を運営するうえで必要不可欠な存在となり、景気が後退した中でも手放すことができなかったんですね。
こうした働きを個人の能力にとどめず、会社としてのサービスに昇華すれば、“派遣”の在り方そのものを変えられると考えたのです。
―本来、外部の社員がそこまで踏み込むのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
川崎
お客様先で業務を行っていると、ごく自然に、「ここをもっとこうすればいいのに」という改善点が見えてきます。第三者だからこそ、内部では気づきにくい要素が発見できるのです。また、人間関係のしがらみがないため、役職や部署間の関係にとらわれず、忌憚のない意見が言えます。