ATD日本支部『イノベーティブ企業のリーダーシップ開発』調査より イノベーションを支える リーダーシップ開発とは
イノベーションが継続的に生まれるためには、どのようなリーダーシップ開発を行えばよいのか。
そもそも、企業でイノベーティブ度が高まるメカニズムとは―
そんな疑問を持つ人事・人材開発担当者は、少なくないだろう。
ATD日本支部リーダーシップ開発委員会では、そうした疑問を明らかにするため、アンケート調査を行った。
その分析結果を基に、イノベーションとリーダーシップの関係を考察する。
イノベーションの仕組みを分析
世界最大級の人材・組織開発の非営利団体ATD(旧ASTD、Associationfor Talent Development)の“日本支部”にあたる当組織では、2007 年に「リーダーシップ開発委員会」を発足。企業の実務家、コンサルタント、学術研究者らが、組織におけるリーダーシップ開発の在り方を、日本企業の現状に照らし合わせて探ってきた。2012年からは、イノベーションを継続して実現する企業(以下、イノベーティブ企業)に焦点を当て、調査・研究を重ねている。
今回、その一環として、2015 年に実施したアンケート調査の分析結果がまとまった(図1)。分析のポイントは、次の3点である。
○「イノベーティブ度が高い企業はいかに創られるか」のモデル化
○企業のイノベーティブ度を高める影響要因とは何か
○リーダーシップ行動は、企業のイノベーティブ度の向上に有効か
始めに、企業においてイノベーティブ度が高まるメカニズムを明らかにする。そのうえで、イノベーティブ度を高める要因がどのようなものかを特定する。そして、各階層のリーダーシップ行動が企業のイノベーティブ度を高めることを示し、今回の特集のテーマである「リーダーシップ開発」の重要性について言及したい。
なお、ここでいうイノベーションとは、技術革新のみを指すのではない。ゲイリー・ハメル(ロンドン・ビジネススクール客員教授)の提唱する4つのレベルのイノベーション―①経営、②事業、③商品・サービス、④業務に付加価値を生み出す活動全てを対象としている。
1 イノベーティブ企業のメカニズム
○イノベーション活動の起点は、「経営トップのリーダーシップ」
○経営レベルのイノベーションと、現場レベルのそれが両輪となり、企業のイノベーションが進む
○組織文化、人材マネジメント、現場の働き方が互いに影響し合い、現場のイノベーションが活性化する
■イノベーティブ度を高める仮説モデル
本委員会では、今回のアンケート調査に先立ち、ベンチマーク企業15 社へのインタビューと文献調査により、企業のイノベーティブ度が高まる要因について仮説モデルを構築した(図2)。
このモデルでは、①経営トップの働きかけ(リーダーシップ)が起点となり、②組織文化、③組織・人材マネジメントがイノベーション志向になる。そして②③が、現場のイノベーション活動を促し、④現場の社員がイノベーティブな働き方をすることで、企業のイノベーティブ度が高まる。
①②③④の4つの「イノベーティブ特性」は、インタビューと文献調査を基に検討した図3の構成要素からなる。
図2右側の「複合的なイノベーティブ指標」は、企業のイノベーティブ度との関連が推測されるさまざまな指標を分析し、イノベーションとの因果関係が明らかになった指標を因子分析※1によってグルーピングしたもの。これらの指標の値が高ければ、その企業のイノベーティブ度が高いといえる。複合的なイノベーティブ指標のより詳しい内容は図4を参照されたい。
※1 多数のデータをグループ分けし、共通する要因を推測する統計手法。
■経営トップが起点
この仮説モデルを検証するため、今回実施したアンケート調査のデータを重回帰分析※2を用いて分析したところ、図5のような関係が明らかになった。
「経営トップのリーダーシップ」は、他の3つのイノベーティブ特性から最も影響を受けない。つまり、4つの中で最も独立性が高いということであり、経営トップのリーダーシップがイノベーションの起点になっているという仮説が立証された。
加えて、「経営トップのリーダーシップ」は、「組織文化」と「組織・人材マネジメント」には影響を与えているが、「バリューチェーン・業務オペレーション」にはほとんど影響しない。経営トップの行動が直接現場の働き方を変えるわけではなく、組織文化や組織・人材マネジメントを通じて影響が及ぶのである。