Trend 1 集合天才でイノベーションを生む コレクティブ・ジーニアス・リーダーシップ
リンダ・A・ヒル教授は、2015年の「世界で最も影響力のある経営思想家50人」
で世界第6位にランクインするなど、話題の経営学者である。
近年の研究は、イノベーションとリーダーシップの関係だ。
グーグルやピクサー、ファイザー等、継続的にイノベーションを起こしている企業のリーダーに調査を行っている。
イノベーションは、どのようなリーダーシップとチームから生まれるのか。
今後求められるリーダー像と合わせて聞いた。
2つの研究の間をつなぐ
私は、ハーバード・ビジネススクール(以下HBS)でリーダーシップ教育の責任者を務めており、近年は、イノベーションを起こすリーダーシップについて研究している。
きっかけは、2000 年代初頭のこと。アメリカでは経済不況を背景に、80 年代から90 年代にかけて、ジョン・コッター氏やウォレン・ベニス氏らによる「組織に変化をもたらす変革型リーダーシップ」の考え方が広く普及していた。しかし2000 年代に入り、HBS内で、そうした「組織に変化を起こす」というレベルを超え、「未来に向けてイノベーションを起こせるリーダーをハーバードで育てていこう」というミッションが立ち上がった。
早速、同僚の教授とディスカッションのうえ文献を調査し、イノベーションについて詳しい人を探して取材を始めた。この初期調査で分かったことは、リーダーシップの研究者とイノベーションの研究者は異なる分野に属しており、その間をつなぐ研究が十分になされていないということだった。そこから、イノベーションを起こすリーダーを養成するには、イノベーションとリーダーシップとの関係性を明らかにすることが大事だと考え、イノベーティブな企業におけるリーダーの調査を進めていった。
似て非なるリーダーシップ
グーグルやピクサーに代表されるような、常にイノベーションを起こし続けている企業で、イノベーションを牽引していると名高いリーダーたちの行動を観察し、ヒアリング調査をし続けている。2016 年3 月時点で、29 名のイノベーティブ企業のリーダーの調査が完了した(編集部註:『Collective Genius』、邦題『ハーバード流
逆転のリーダーシップ』は、16名の調査が進んだ段階で執筆された)。
調査前には、組織に変化を起こすリーダーシップ(変革型リーダーシップ)と、イノベーションを起こすリーダーシップは類似のものだと考えていた。しかし、調査を進めると、両者が全く異なるものだということが分かり、非常に驚いた。
私たちは、イノベーションと聞くと、スティーブ・ジョブズのように、カリスマの天才的なひらめきが重要と考えがちである。しかし、実はそうした1人のひらめきからイノベーションが起きることは極めて例外的で、多くのイノベーティブ企業では、集団による創造性がその源泉となっていること、また集団のリーダーは、メンバー個々のリーダーシップや創造性を引き出し“コレクティブ・ジーニアス(集合天才)”な状態をつくり上げていることが、徐々に明らかになっていったのである。
例えば、『トイ・ストーリー』や『ファインディング・ニモ』などのアニメ映画で有名なピクサー・アニメーション・スタジオは、制作した映画の多くが成功を収めており、誰が見てもイノベーティブな企業だろう。しかし、ピクサーを牽引するリーダーは? と聞かれて答えられる人は何人いるだろうか。グーグルでもそれは同様だろう。
コレクティブな在り方とは
■未来志向
具体的に、イノベーティブ企業のリーダーに共通していたのは、まず、全員がフォワードシンキング―未来を見据え、先見の明があるということである。他の人よりずっと先を見て、「機会の可能性」を捉えている。