THEORIES リーダーシップ研究の変遷と新潮流
企業・組織内教育におけるリーダーのあるべき像や、育成手法を考えるには、先行研究や、潮流の中での背景や位置づけを知ることが参考になる。
その視点で、これまでの研究と最新の潮流を概観したい。
■永遠のテーマ“リーダーシップ”
「リーダーシップ」と聞いて、真っ先に思い浮かぶ人物は誰だろうか。キング牧師、マハトマ・ガンディー、それとも、AKB48を率いた高橋みなみだろうか。
時代によりリーダーの代名詞は変わるが、洋の東西を問わず、人々を率いるリーダーの在り方は関心を持たれ続けてきた。本稿では、「最も研究されているが、最も解明が進んでいない領域」ともいわれるリーダーシップ論※1に関し、これまでの研究の大きな転換点と共に、最新の潮流を紹介する。
※1 Bennis & Nanus(1985)
■リーダーシップ研究の転換点
リーダーシップ研究は、本稿で紹介する新潮流を除くと、大きくは5つの流れに区分することができる(図1)※2。5つの流れとは、①特性理論、②行動理論、③条件適合理論、④交換理論、⑤変革型リーダーシップ理論である。
そして、今、新たなリーダーシップ研究の潮流が芽生え始めている。
※2 House & Aditya(1997)
1.識者による偉人伝から始まった特性理論
リーダーシップ研究は、古くは紀元前にまでさかのぼることができる。国を率いる政治家や軍人など、いわゆる偉人と呼ばれるような人々に共通する資質について、思想家や哲学者が自身の見解を述べたものがその最初といえる。
主流を占めていたのは、「優れたリーダーには、共通する生来の特性がある」という考え方だ。例えば、プラトンの国家論では、国を率いる哲人王は誰もがなれるものではなく、最も物事を知り、知恵ある者のみが善き統治者たりうるとし、孔子は『論語』において、生まれながらに徳性を備えた者が理想の君主たりうると論じている。
19世紀に活躍した哲学者カーライルは、『英雄崇拝論』において、かつての英雄たちを例に、リーダーたりうる人物とは、他者に比して抜きん出て優れた特性を有している人物であるとまとめている。
20世紀に入ると、ビネー、シモンら心理学者が知能検査を創案したことをきっかけに、人間の能力差を科学的に測定する動きが始まる。これをきっかけに、リーダーが共通して有するとされてきた特性についても、科学的な手法による検証が始まる。検証が重ねられるほどに明らかになっていったのは当初の予想を裏切るもので、優れたリーダーの要因は、特性だけでは説明できない、というものだった※3。
リーダーシップを特性から検討するアプローチは、こうして終焉を迎える。
※3 Stogdill(1948)
2.リーダーの「行動」に着目した行動理論
次に研究者たちが着目したのは、「行動」だった。おりしも時代は、1940年代から60 年代。世界大戦後、軍や国家だけではなく、産業面の活性化のためにも多くのリーダーが必要とされていた。偉人たちの秘訣を帰納的に分析するだけではなく、リーダー役を任ぜられた多くの人材に、望ましい行動を示す必要に迫られていた。
こうした背景から、この時代にはリーダーの行動に着目した調査が数多くなされ、現在にも通じるリーダーシップ行動の不動の2軸と呼ばれる領域が見いだされている※4。それは「仕事」に関する行動と、「対人」に関する行動だ。
よきリーダーとは、「仕事」と「対人」の両面の行動が優れているというのは、シンプルでかつ納得感が高い。ゆえに、現在でも表現の違いこそあるものの、この2軸からリーダーシップを論じているものは多い。
これら一連の研究の先陣を切ったのは、オハイオ州立大学のシャートルである。行動を測定する膨大な項目を用いた質問表による調査を行い、優れたリーダーに共通する行動として、仕事の枠組みを決める「構造づくり」と、対人面における「配慮」に関する行動の2軸を発見した。ほぼ同時期に行われたハーバード大学やミシガン大学による調査によっても同様の枠組みが発見されている。
このように、「仕事」と「対人」に関する行動の2軸は、当時さまざまな研究者によって導き出され、図2にあるように、その後の研究においても、関連する結果が発見され続けている。
一方、一連の調査では、2軸の行動に秀でたリーダーが高い成果を上げることが多いものの、2軸の行動に優れていれば、いかなる状況においてもうまくいく、ということまでは証明できなかった。この謎を解明すべく、リーダーシップ研究は、新たな舵を切ることになる。
※4 金井、高橋(2004)