外国人材の心をワシづかみ! 日本発のマネジメント 第3回 アジア流動機づけの黄金律
世界の人材争奪戦において世界に遅れをとる日本。
打開策は現地の人々のより深い理解、そして日本企業ならではの育成、伝統にある―。
異文化マネジメントに精通する筆者が、ASEANを中心としたグローバル人材にまつわる問題の解決法を解説します。
「フィリピンの人たちは一生懸命努力してくれて本当に助かりました。ただ日本人は99%をめざすんですが、フィリピンの人たちは85%くらいで良しとしてしまう。ここがなかなか変えられなかったですね……」
マニラ郊外で、ハードディスク工場の社長氏とご一緒した会食の席で聞いた言葉です。帰任直前に残されたメッセージでした。
この夜以来、私の頭には「どうしたら最後の15%を埋められるのだろう」という問題意識がインプットされました。それ以来、世界中で重ねてきたビデオインタビューは100 人を超え、そのたびに「What is the profile of a“good boss” in your culture here?(この国における良い上司とはどんな人ですか?)」という質問を繰り返しています。現地社員向けの研修でも必ず出てくるトピックとなっています。
驚くことに、多くの東南アジア、中国、インドの各国の現地人幹部の答えには、共通するキーワードがありました。「ボスとフレンド」です。「カリスマと温情」と言った人もいますが、意味はほぼ同じでしょう。グッドボスの黄金律ともいえる言葉です(図1)。
ボスの行動原理
その意味はこうです。多民族チームのメンバーは価値観や行動パターンがさまざまだからリーダーがブレていては無法地帯になる。だから「ボス」は、哲学と権威を持ち、有言実行の人(walk the talk)で、お家の一大事になると火消ができる実力がなければならない、といったニュアンスです。それではまるでスーパーヒーローじゃないか!と思うでしょう。実はその通りなんです。
「日本からやって来る幹部はスーパーマンであってほしい、リーダーにはヒーローを求めます」とは、マレーシア・自動車部品メーカー人事部長の言葉です。スーパーマンとは「問題解決できる力があって、かつ、人の問題でも相談に乗れる人物」です。
日本企業には焦りが足りない
この「ボス」の条件が新興国で役職に就く人の第一の資質です。しかし、タイやマレーシアのように先進国になり切れないまま「中進国の罠」(先進国入りを前に成長が停滞すること)から抜け出せない国々の産業界は、こうしたボスが少ないことに危機感を感じています。