人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第46回 『悲情城市』川西玲子氏 時事・映画評論家
「悲情城市」
1989年 台湾 監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
台湾の現代史は複雑だ。第二次世界大戦終結後の国共内戦の最中に国民党が施行した戒厳令は、1987年まで37年間も続いた。その間、大陸では1949年に共産党による中華人民共和国が成立し、国民党政権の台湾と対立する。台湾は、東西冷戦におけるアメリカの同盟国として経済を発展させた。
だがアメリカは、ソ連へのけん制やベトナム戦争終結への思惑などから、中国に接近。後に日本に続いて国交を正常化した。一方、台湾国内では1970年代から民主化運動が盛んになる。戒厳令解除後の1988年には、本省人※の李登輝が総統に就任(当初2年は代行)。中国との関係に配慮した現実外交を展開した。
戒厳令解除によって、映画界にも新しい動きが起こった。架空のヒーロー物や恋愛物語ではなく、台湾の歴史や日常を描く台湾ニューウェーブの誕生だ。その象徴的作品がこの『悲情城市』。国共内戦に敗れた国民党政府が、台北を臨時首都に定めるまでの4年間に、ある一家がたどる運命を描いたものである。