コンフリクト・マネジメント調査結果より 日本人社員は本当に “対立したくない”のか
日本人は「和」を重視するため、コンフリクト(対立)を回避する傾向が強いことは、さまざまな研究で確認されている。しかしこれは、回避を“ 好む”ことと同義ではない。
日本人はコンフリクトを嫌ってはいない―この仮説を基にビジネスパーソンに対する定量調査を行い、その真相を確認した。分析の結果は、日本企業にとって望ましいコンフリクト・マネジメントの在り方を示すだけではなく、「和」という言葉の再解釈を促すものであった。
※コンフリクト・マネジメントについては24ページも参照。
回避したいわけではない?
欧米人に比べて、日本人は「和」を大切にし、波風を立てることを嫌う―これは、日本人と欧米人とを比較した場合に、多くの人々が一般的に持つイメージのひとつだろう。だが、果たしてこれは本当なのか。
組織のマネジメントの問題を検討するうえで、このような日本人と欧米人の違いが最も顕著に表れるのが、コンフリクト・マネジメント(社員の間で生じる対立や衝突のマネジメント)の場面である。
お互いのメンツを考慮しがちな日本人にとって、コンフリクト・マネジメントに長けたマネジャーとは、職場を混乱させるような対立・衝突を未然に防ぐことができるマネジャー、もしくは、生じてしまった対立や衝突が大きくなる前に抑えられるマネジャーだと考えられやすい。そのため、欧米の企業で働く社員を対象とした研究で、「一定の条件の下では、コンフリクトは組織のパフォーマンスに対して好ましい影響を与えるため、積極的に生じさせる必要がある」という分析の結果が示されたとしても、日本企業では無視されてしまうことがある。
確かに、既存の日米比較研究において、日本人はコンフリクトを回避する傾向が強いことが確認されており、それは多くのビジネスパーソンの直観や経験とも一致するだろう。
しかし、日本人がコンフリクトを回避する傾向にあることと、日本人がコンフリクトを回避することを好むこととは別の問題である。例えば、あるミーティングにおいて、同僚が間違った議論を展開していることに気づいた時、「相手の誤りを指摘すると角が立つし、場を乱したくないから何も言わないでおこう」と考え、自分の意見を述べなかったとする。ここで、「うちの職場では言いたいことも言えないので不満だ」と感じるのであれば、コンフリクトを回避しているけれども、その行動自体には満足していないのである。
日本企業で働く社員の多くが日々このように感じているのであれば、むしろコンフリクトを回避せずに多く経験して(できて)いる社員のほうが、仕事において高い満足とやる気を感じていると予想できる。
そこで今回、この仮説に基づき、日本企業で働く日本人社員を対象とした調査を行い、コンフリクトの経験や、コンフリクトに関わる職場の文化が、彼(女)等の満足度ややる気に対してどのような影響を与えているのかという点を分析した。
もし、コンフリクトを多く経験し、積極的にコンフリクトに向き合うことのできる社員が、高い満足とやる気を感じているのであれば、「対立を防ぎ抑えることが日本のコンフリクト・マネジメントである」という考え自体を改める必要があるだろう。
1-1 2種類のコンフリクト
●避けるべきものと生じさせるべきものがある
本調査・本稿では、90 年代以降のコンフリクト研究に依拠し、コンフリクトを「タスク・コンフリクト」と「リレイションシップ・コンフリクト」の2つの種類に分けている。調査結果の解説に入る前に、2種の違いについて述べておこう。
タスク・コンフリクトとは、仕事内容に関する意見やアイデアの衝突のことである。対してリレイションシップ・コンフリクトとは、仕事とは直接関係のない人間関係上のいがみ合いによって生じる衝突を意味する。リレイションシップ・コンフリクトが起こると人間関係が壊れ、その修復に多くの時間が費やされてしまうため、パフォーマンスに対して好ましくない影響を持つという事実がさまざまな研究を通して確認されてきた。したがって、リレイションシップ・コンフリクトは常に避けるべきものである。
他方、タスク・コンフリクトは、パフォーマンスに対して好ましい影響を与えうるもので、時には生じさせる必要のあるコンフリクトとして議論されてきた。仕事内容に関してさまざまな意見やアイデアが衝突し合うことによって、問題の多面的な考察が促されるのに加え、異なる意見やアイデアを統合した新たな解決策が見出される可能性が高まるためである。