TOPIC 日本企業復活のために 今、まさに育てるべき人材像と 人材マネジメントの在り方
経済格差や教育格差など、今、日本社会ではさまざまな分野で格差が進んでいる。
企業間格差の進行も著しい。業界により世界トップクラスの企業がある一方で、日本のお家芸とされた業界でグローバルな争いに沈む企業がある。
かつて“Japan as No.1”と世界から賞賛された日本企業が、再び輝きを取り戻すためにはどのような人材が必要なのか。
関西経済同友会常任幹事・事務局長や大阪国際会議場社長などを歴任し、半世紀以上にわたり経済界と深く関わってきた萩尾千里氏に聞いた。
強みを失った日本企業
日本企業の現状は、正直言ってあまり芳しくない。高度経済成長時代から経済界をつぶさに見てきた私には、今の日本企業は過去の強みを失い、新たな時代への対応ができていないように映る。
日本企業は戦後、敗戦のどん底から復活して奇跡的な成長を遂げ、欧米を追い越し世界に冠たる地位を築いた。奇跡を起こせた理由は、日本独自の強みを活かしたからだ。
強みとは、「教育」と「精神」である。江戸から明治そして昭和に至るまで連綿と続いた日本文化は、ハイレベルな教育を国民に授けた。さらに神道、仏教、儒教の融合が社会に、「和と寛容の精神」を培ったのだ。
この2つを背景として、日本的経営はその原点に、運命共同体としての労使関係を据えた。松下幸之助の持論は「使命感を感じたら人は動く」である。松下は労働組合に対して「あなたたちと私は運命共同体だ。私はあなたたちのためになんでもする。だから労使一体となって成果を見せよう」と訴えた。この言葉に当時の組合幹部が意気投合したのだ。
以降、松下は労使一体型の日本的経営をリードし続けてきた。週休2日制をいち早く取り入れ、労働組合のための保養所を整備するなど、労使協調に基づく経営を進めた。
松下に続いたのが鬼塚喜八郎(現アシックス創業者)や塚本幸一(ワコール創業者)などの経営者たちだ。こうして関西圏で確立された経営モデルが日本全体に広がっていく。終身雇用、年功序列型賃金、企業別組合などの日本型モデルは世界的にも高く評価された。
ところが、ある時期から世界の様相が一変した。
グローバル化と文明の液状化
転機となったのはソビエトの崩壊(1991年)である。戦後の世界の、米ソ対立による冷戦構造が一変した。歯止めを失った自由市場資本主義が暴走を始め、これに交通革命、情報通信革命が追い打ちをかけた。航空網とインターネットにより、人と情報が瞬時に世界中を駆け巡るようになった。
恐ろしい勢いで進んだこのグローバル化により、国境の壁は溶け去り、“文明の液状化”現象が起こった。