人材教育最前線 プロフェッショナル編 チャレンジを促す教育と評価が 「オルビスが好き」な社員を育てる
「社員に愛される会社であってこそ、お客様に愛される企業になる」――取締役管理部門担当で人事・組織改革部長の福島幹之氏が10年にわたる店舗運営の中で体感し、確信したことだ。
スキンケア用品や化粧品の開発・販売を主力とするオルビスでは、2012年から本格的にブランド再構築に取り組み、顧客への新たな価値提案をめざしている。
そうした中、福島氏は、社員一人ひとりが立場や役割を越えてチャレンジし、力を発揮するための教育と環境づくりこそが自らの役割であり、結果的に会社とお客様にプラスをもたらすという。
「価値観の共有」の重要性
「異なるさまざまな経験を重ねてこそ、人は成長する」と考える福島氏。大学卒業後、10年勤めた化粧品会社を辞め、転職を決意したのもそれが理由だった。
「若いうちから仕事を任せてくれる会社でしたが、当時、部門責任者等を務める中で自分に足りないものも感じていました。同じ経験からの学びには限度があり、異なる経験を積むことで視座や視点が変わると考え、一度慣れ親しんだ場所を離れ、異なる環境で学んでみようと思ったのです」
自身に足りないと感じていたことの1つが、「戦略思考」―チームで物事を進めるために何をめざすのか、それはなぜか、どうやって進んでいくのかといったストーリーを描く力だった。
そこで、経営のプロとして戦略思考に重きを置く企業に就職。その手法とノウハウに触れ、2006年4月、再び化粧品業界に戻り、オルビスに入社した。
その後、福島氏は現在の取締役人事・組織改革部長になるまで、10年近く店舗事業部門で直営店の運営に携わってきた。そこで常に意識し、取り組んだのが、店舗事業における“価値観”を、店舗と本部がしっかりと共有することだった。
「この“価値観”とは『お客様がまた来たいと思う店づくり』であり、それは『お客様一人ひとりを大事にする』こと、『お客様と接する店舗が第一』であるということです。これが全社で浸透すれば、オルビスはもっと成長できると思っていました」
さらに福島氏はこう続ける。
「『価値観』とは教わるものではなく、仕事を通じて自ら気づき、感じるものではないでしょうか。いろいろな人と仕事をし、経験を積む中で共有したり、文化として引き継がれていったりするものだと思います」
社員から愛される会社
「お客様がまた来たいと思う店づくり」を支えるのは、「オルビスという会社が好き」という社員の思想だと福島氏は言う。
なぜなら、店舗における接客や売り場づくりが、決して楽な仕事ではないからだ。例えば、化粧品の購入を「買い方」で見た時、通販やドラッグストアなどで自分で選んで買う、百貨店の化粧品コーナーでカウンセリングを受けて買う等々、人それぞれ、さまざまな方法と理由がある。そして店頭販売の場合は特に、その理由を顧客の様子や行動からいかに見定め、対応できるかが重要だ。同じ顧客だからといって毎回、同じ対応をすれば良いわけではなく、声を掛ける内容やタイミングにその都度こだわる必要がある。レイアウトや陳列など、売り場づくりも同様だ。
「接客と売り場づくりの両面から『また来たいと思う店づくり』が求められるオルビスの店舗従業員は、本当に大変だと思います。『この会社が好き』とか、『オルビスのお店で働いて良かった』という気持ちがなければ働き続けるのは難しい。ですから全ての店舗従業員の正社員化や、育児・介護と仕事の両立支援などの制度整備はもちろん、評価の軸も、社員の『お客様にまた来たいと思ってもらうための行動』を重視するというスタンスを示しています。
そもそも入社する社員のほとんどが元お客様です。販売員としての経験の有無ではなく、オルビスがもともと好きという人が多い。こうした思想を大事にすることが、結果的に会社にとってもお客様にとってもプラスに働くのです」
大切な存在だと伝える
「思想」に加え、福島氏が店舗事業部門時代から大切にしてきたことがもう1つある。それは、社員たちに、「自分は会社の役に立っている重要な存在だと分かってもらう」ことだった。