INVESTIGATION ~管理職の経験学習調査結果より~ 管理職の能力を伸ばす 経験・サポート・学びの姿勢とは
どのような経験のデザインや経験学習環境が望ましいかは、企業や業種、個人によってさまざまで、その“見立て”はとても難しい。
日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)では、それらを少しでも明らかにすべく、従業員規模1000 名以上の企業に勤務する管理職及び管理職相当職を対象にアンケート調査を行った。
本稿はその抜粋報告である。
調査のねらい
管理職の「能力」獲得につながる「経験」と「サポート」を明らかに
タレントマネジメントを試みている企業、すなわち企業に必要な人材の能力や経験を特定し、社員一人ひとりの関連データを収集することで、人材(=タレント)の適材適所を試みている企業は多数ある。その対象として、特に着目されるのは、組織を牽引していくリーダーや管理職であろう。
そこでの方向性を決める議論に欠かせないのは、「どのような経験が、企業で必要としている能力の獲得に有効か」ということに関わる、会社なりの「見立て」を設定することである。言い換えれば、「どのような学習環境を整えるべきか」ということになるだろう。しかし、その見立ては非常に困難で、明確な形になりにくい。なぜなら、個社ごと・個別の管理職のケースだけでは、それが判断の根拠として正しいのか、確信が持てないからである。
そうした問題意識の高まりと呼応してか、組織のリーダーや管理職が経てきた経験に関わる研究も近年数多くなされており、上記の議論に有効な示唆を与えている。職場での成長を促す要因として、他者からのサポートに着目した研究もなされている。
一方で、今までの経験学習に関する調査では、経験の種別と学習内容の関係に焦点が当てられることが多く、個々の経験のレベルや連続性について言及しているものは稀であった。また、経験と他者からのサポートの効果を包括的に扱った研究も十分とはいえない。
そこで本調査においては、管理職の能力に影響を与える「外的」要因として「経験」と「サポート」という2つの側面に着目し、より多面的に「管理職として成長すること」の現象を明らかにすることにより、管理職の育成・配置に関する取り組みに貢献しようとするものである。
「管理職の能力」と「学びの姿勢」に着目
また、本調査では、「管理職の能力獲得」に影響を与える「学びの姿勢」と「アンラーン」についても検討を行った。
同様な仕事経験を経て同様なサポートを受けていても、より多くを学ぶ人とそうでない人がいる。その差が何によるものかを突きとめるために、個人の学ぶ姿勢や固定化した考え方から脱却できること、つまり「内的」な要因も同様に見ていかなくては、管理職の育成・配置に関する施策をより効果的なものとすることはできないだろう。
上記調査のねらいから、
①管理職個人の「外的」要因
②管理職個人の「内的」要因の2つが、管理職としての能力※1開発にどのように影響するか、という調査モデルを設定し、調査を実施することとした。
※1「管理職の能力」の指標には、コンピテンシーの自己評価を用いた。コンピテンシーとは、高業績者に共通する行動特性である。ここでは、管理職を対象としたJMAMの多面評価RoundReview®をもとに追加を行い9つの能力項目を設定した(項目名は図2参照)。それぞれの能力項目についての質問には、「5:非常によくしている」「4:かなりよくしている」「3:どちらともいえない」「2:ほとんどしていない」「1:まったくしていない」のいずれかで回答してもらった。
1-1 どのような「仕事経験」が、管理職の能力を伸ばすのか
1-1-1 「仕事経験」とは
まず管理職個人の「外的」要因のうち、「仕事経験」について解説する。
リーダーや管理職の成長を促進させる経験は、過去の調査からも多くの知見が得られている。米国の非営利教育機関センターフォークリエイティブリーダーシップ(以下CCL)はこの分野の研究のパイオニアであり、管理職やリーダーの成長を飛躍的にもたらす経験について多くの情報を提供してきた。日本においては、神戸大学の金井壽宏教授によって「一皮向ける経験」と訳され、2000年代に同様の調査が進められてきた。
しかし、これまでの調査で明らかになった成長に役立つ経験は、組織で成功を収めた上級管理職を対象にヒアリングされたものが多かった。そのため、語られた経験は、これから管理職をめざす者や、管理職として今後成長していく者にとっては手が届きにくいものが多いという課題もあった。
そこで、今回の調査では、CCLが提示した成長に役立つ経験※2の枠組みをベースに調査メンバーで協議を行い、10種類の経験(図1)について、一般職にも身近なレベルの経験から上級管理職に求められるレベルの経験まで4段階を設定※3し、その経験の有無と管理職の能力との関係を確認した。
※2 McCauleyetal,1994
※3 10種×4段階の経験は、統計的な検討結果によっても、当初設定した10種類にほぼまとまった。
1-1-2 管理職の能力を伸ばす「仕事経験」とは
どのような仕事経験が管理職の能力を伸ばすのだろうか。今回設定した10種類の経験の有無が、各能力に与える影響を分析した(図2)。
その結果、最終意思決定者としての役割を担う経験である「重大な意思決定経験」が全ての能力にプラスの影響を与え、かつ影響度も最も大きいことが分かった。一方で、「業績責任経験」は、いずれの能力にも影響を及ぼしていなかった。単に管理職として業績責任を負うだけでは能力は伸びず、自分が意思決定の最後の砦となることで、物事への向き合い方が変わると考えられる。