OPINION1 経験学習の基本と、効果を高める方法 チームでの振り返りが 「経験からの学び」を加速させる
経験学習とは、そもそもどのような概念なのか。
また、経験学習の効果を高めるには、どのような支援が考えられるのか。
この分野における第一人者である、北海道大学大学院教授の松尾睦氏に聞いた。
経験学習とは
人の成長を決定する要因の比率、「70:20:10の法則」※を聞いたことがある方も多いだろう。優れたマネジャーは学びを、70%は自分自身の仕事経験から、20%は他者の観察やアドバイスから、10%は読書や研修から得ている、というものだ。
「経験」には、仕事の経験のように自分が直接的に関わる「直接経験」と、他者の教えや書籍・研修など、他人が経験したことから間接的に学ぶ「間接経験」の2つがある。そして先の法則は、直接経験である仕事の経験が、成長の大きな源泉であることを示している。
では、人は経験からどのように学んでいるのだろうか。組織行動学者のデービッド・コルブが提唱した経験学習サイクルのモデル(図1)によれば、人は何か具体的な経験をした後、内容を振り返って内省し、そこから教訓を引き出し、新しい状況に適用することで学ぶ。しかし、このサイクルが回っていたとしても、経験の質が悪かったり、自己中心的な振り返りをしていたりすれば、成長はおぼつかない。個々人が経験から適切に学ぶ力を持つことが重要になる。
※米国のリーダーシップ研究機関、ロミンガー社による、優れたマネジャーを対象とする調査で導き出された。
「経験から学ぶ力」の3要素
この「経験から学ぶ力」をより分解すると、どんなものになるのか。私はこれまでの研究を踏まえ、「ストレッチ(挑戦する力)」「リフレクション(振り返る力)」「エンジョイメント(楽しむ力)」の3要素に整理し、紹介してきた(図2)。
ストレッチとは、問題意識を持ち、挑戦的で新規性のある課題に取り組む姿勢である。次のリフレクションは、仕事の最中に試行錯誤をしたり、終了後に成功や失敗を振り返ることで、教訓を引き出すこと。このことで、新しい知識やスキルを記憶の中に刻み込む。そして、挑戦し続けるためには、仕事の中にやりがいや面白さを見つける姿勢が必要になる。それがエンジョイメントだ。
さらに、この3要素の原動力となるのが、「思い」と「つながり」である。「思い」とは、仕事に対する目標、価値観、信念であり、「つながり」とは、自分を成長させてくれる他者との関係性を指す。適切な「思い」と「つながり」を持つ人は、ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントが活性化され、経験学習サイクルを良い形で回すことが出来る。