常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第8回 これからのモノづくり
戦後の日本経済を牽引した製造業ですが、近年は生産拠点が海外へ移り、国内の空洞化が課題です。日本のモノづくりは、どこに向かうべきでしょうか。元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成の在り方について、提言します。
製造業は国内回帰へ
これまで、日本の製造業は安価な労働力を求め、生産拠点を海外へ移転し続けてきました。しかし、この流れは長続きしないでしょう。背景には、2つの変化が挙げられます。
1つは、移転先である新興国の労働環境の変化です。当初は現地の労賃を低く抑えられても、その国の経済が成長するにつれ人々の生活水準は高まり、労賃を上げざるを得なくなります。そこで、労賃のより安い国を求めて、中国にはじまりタイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア……と、国々を転々とします。これではモノづくりで最も大切な、真の人材は育ちません。安易な生産拠点の移転は問題です。
もう1つの変化は、IoT(Internet of Things:あらゆるモノをインターネットで結び、制御する技術)、ロボット、AI( 人工知能)など、生産性や柔軟性を高める技術の進化です。これらの技術を駆使すれば、人件費を抑えた国内生産も可能となり、日本のモノづくりはコストが高いという考えは当てはまらなくなります。
こうした変化を踏まえると、日本の製造業は、いまこそ国内にしっかりと腰を据え、高度な技術力と伝統的な職人魂をもって新しい姿のモノづくりに挑戦すべきではないでしょうか。
実際に、製造業では国内回帰の動きがあります。自動車の分野では、大手メーカーが、次世代のクルマは日本で開発・生産すべきと考え、国内の生産拠点を整備しています。造船の分野では、十数年ぶりに国内に新工場を建設し、新たな強化策を打ち出しています。
同様の変遷は米国でも見られます。以前はドル高を背景に国内での製造を縮小し、輸入への依存を高める政策をとってきましたが、オバマ政権はイノベーション促進と雇用創出の観点からモノづくりの国内回帰策を打ち出しました。結果的に米国の製造業は、かつての勢いを取り戻しています。
つまり製造業にとって、モノづくりをどこで行うかはとても重要なことなのです。日本企業である以上、“ホーム”である国内の地盤をしっかりと固めておかなければ、“アウェイ”である海外の市場で戦い抜くことはできません。