第35回 言葉に出来ない「ハンドリング」の技をどう伝えるのか 「リハビリの先生」 理学療法士たちの学び 薄 直宏氏 東京女子医科大学 八千代医療センター リハビリテーション室長 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
急激に高齢化が進む日本において、問題となっているのが、医療や介護分野の人材不足。
運動機能の回復を目的としたリハビリを行う理学療法士もまた人材の育成が急がれる仕事のひとつです。
今回は、理学療法士の仕事の現場を訪ねました。
理学療法士とは、病気やけがなどによる身体機能の障がいがある人に対して、起き上がる、歩く、動く、といった基本動作が出来、日常生活が送れるよう治療やサポートを行う「リハビリテーションの先生」です。
ストレッチや体操、歩行訓練などを行う運動療法が主ですが、痛みを和らげたり、麻痺を回復させることを目的に、電気をかけたり、温めたり、お風呂に浸かったり、水の中を歩いたりといった物理療法も組み合わせ、効果的なリハビリプログラムを行っていきます。
理学療法士の勤務先は病院のほか、地域の訪問看護ステーション、市区町村、保健センター、回復期リハビリテーション病院、老人保健施設、特別支援学校、さらにスポーツ分野など、多岐に渡ります。圧倒的に多いのは病院ですが、今、増えているのは地域医療の分野です。高齢化に伴い、病院の病床数が不足していることもあり、国の方針として、できるだけ在宅で療養し、地域の訪問介護や看護拠点がそれを支える、という在宅介護、看護の流れになってきているからです。
活躍の場が広がっていることもあり、現在、全国で約10万人の理学療法士がいます。その数は、1970 年代と比べて、なんと約90倍。それでも、多くの現場で理学療法士が不足しているのが現状だといいます。
高齢化が進む日本において、高齢者が自立した生活を送るための支援を行う理学療法士の育成は急務ですが、一言でリハビリといっても、患者さん一人ひとりの機能回復をめざす理学療法は、まさにオーダーメード。疾患や身体の状況に合ったリハビリを行うためには、やはりある程度、経験を重ねる必要があります。
いったい理学療法士は現場でどのように学んでいるのでしょうか。東京女子医科大学八千代医療センター、リハビリテーション室を訪ねました。
理学療法士になるには
まずは、どのようにして理学療法士になるのか、リハビリテーション室長、薄(うすき)直宏さんに伺いました。
「一般的には、大学、短期大学、専門学校などの養成校で3年間学びます。解剖生理学、運動学などの医学的な知識を学ぶほか、臨床実習を含む実技の勉強もあります」
卒業時に国家試験に合格すれば、最低限の知識と技術は身につけていることになりますが、学校と臨床現場にはやはり、大きな差があります。新人たちが職場でまず直面するのは「患者さんたちはそれぞれ複雑な経過で来院する」という現実。
「新生児から高齢者までさまざまな方がいるだけでなく、状態も多様。また、『肩が痛い』という症状を訴えていても、その原因がオフィスワークなのか、スポーツなのか、事故なのか、はたまた精神的なものなのかは人によって違います。身体機能の障がいだけでなく、内科的な疾患を抱えている人もおられます。