Column「企業の力を掘り起こせ」 経産省に聞く“健康投資の効果”
2015年3月、「健康経営銘柄」22社が選定されたことで、一気にクローズアップされた健康経営。
ムーブメントの仕掛け人ともいえる経済産業省の狙い、そして今後の展望とは。
国主導で展開された理由
そもそも健康経営の推進が政策課題として取り上げられるようになったのは、2013年6月に閣議決定した日本再興戦略以降である。戦略市場創造プランに「健康寿命延伸産業の育成」「予防・健康管理の推進に関する新たな仕組みづくり」が盛り込まれ、同年12月、内閣府の健康・医療戦略推進本部の下に次世代ヘルスケア産業協議会(座長・自治医科大学・永井良三学長)が設置された。
協議会に設けられた健康投資ワーキンググループでは、ヘルスケアビジネスに関わる需要の創出に向けて、企業や個人などによる健康投資の促進について議論を重ねた。これを基に協議会では、2015年5月、「健康経営の推進」を掲げたアクションプラン2015を策定している。
協議会事務局を担当する経済産業省商務情報政策局 ヘルスケア産業課の丸山勇紀係長は次のように趣旨を説明する。
「個人の健康増進を促すのは価値観などの問題もあり、なかなか難しいのが現状です。そこで、我々としては、まずは各企業に従業員の健康管理をしっかり行っていただきたいと考えました。そうした活動を通じて、ひいては従業員一人ひとりの健康に対する意識が変わればと、取り組みをスタートしました」
なぜ健康経営という概念に着目したのだろうか。
「これまでは健康管理といえば、法令義務やコストと捉えられがちでした。しかし、企業経営から見ると、人材投資の一環であり、リターンの獲得が期待できるものです。『健康経営とは、従業員の健康増進施策の投資対効果を意識し、戦略的に実施する経営手法である』という考え方を積極的に広めたいと考えました」
協議会のメンバーには厚生労働省も加わり、経産省と連携している。経産省が企業経営への寄与に取り組む一方、厚労省は健保等へのアプローチによる被保険者の健康増進と医療費適正化を追求する。「健康寿命の延伸」がゴールである点は両省とも同じだ。
健康経営銘柄選定のフロー
「従業員の健康管理はコストではなく投資である」という認識を経済界で広めるには、経営者の心に響く仕掛け、つまり株式市場へのアプローチが非常に効果を持つ。トップが関心を持つテーマは何と言っても業績であり、それは株価に反映されるからだ。「時価総額は経営の通信簿」とも言われる所以である。
そこで経産省と東京証券取引所により創設されたのが健康経営銘柄だった。
選定にあたって、経産省ではまず基準検討委員会を設置し、評価指標を策定するための5つの柱を定めた(図1、2)。
①経営理念・方針(経営方針などで従業員の健康保持・増進の明文化等)
②組織体制(健康保持・増進を統括する組織形態、専門人材の活用、経営層の関与等)