OPINION3 人手不足時代を乗り切る 社員の「満足感」「達成感」を 高める“具体策”
大企業では少しずつ進められている健康経営だが、中小企業の経営者の約6割は
「健康経営」という言葉を聞いたことすらないというデータもある。
生産年齢人口が減少の一途をたどる現代、健康経営に目を向けなければ、
今後、「人手不足倒産」は企業規模を問わず加速するだろう。
健康経営に必須という、従業員の「満足感」「達成感」を高める具体策を聞いた。
深刻化する「人手不足」問題
景気回復の兆しが見え始めた2013年以来、人材の採用、育成に関する課題、問題は大きな転換期を迎えている。
私が関わるコンサルティングの現場でも、「アルバイトが集まらないため、ランチ営業をやめざるを得ない」「人手が足りないので、せっかく条件の良い店舗候補地を見つけても出店ができない」といった切実な悩みが、中堅小売・飲食業などから多く聞かれるようになっている。
これらの業界では、従来、正社員を低コストで雇用調整がしやすい非正規社員に代替することで、低い人件費を原動力に出店攻勢をかけ、デフレ下でも好業績を挙げてきた。だが、景気回復による空前の人手不足により、状況は一変。従来のビジネスモデルでは、経営が立ち行かなくなっている。
建設業においても、受注増の一方で、現場の作業員が集まらず、倒産に追い込まれるケースがメディアなどで報じられている。
また、他業界の中堅以下の企業の人事担当者からも、新卒採用枠を増やしたものの「募集をかけても良い人材が集まらない」といった嘆きの声が多く寄せられる。
今の状況は景気の循環による一過性のものではない。我が国の人口動態の推移を見ても、生産年齢人口は今後も減少の一途をたどるばかり。事態は恒常的、かつ一層深刻化することが予想され、「人手不足倒産」は加速する可能性がある(図1)。さらに、今や「人を大切にしない企業」とレッテルを貼られたら最後、人は離れていくという事実も、心しておく必要があろう。SNSの発達もあり、“ブラック企業”と烙印を押された企業は、時間と共に悪いイメージを払拭できるどころか、拡散される状況に追い込まれるようになっている。
人材不足でシフトが埋まらないため、休日返上で働かされた正社員が過労で倒れたり、メンタル疾患で辞めてしまったりするケースも少なくない。訴訟問題に発展し、企業イメージを大きく損失するリスクも高まっている。
まさに“潮目”は大きく変わったと言わざるを得ない。
改革のカギは「社員の健康」
人件費削減のために非正規社員を利用する。あるいは景気の循環に合わせ、新卒採用数をコストコントロールの調整弁として活用する。最終的には、総人件費の増加を抑えるべく早期退職優遇制度を導入する。こうした従来の対症療法では、中長期的な社員の意識や価値観、外部環境の変化という急速かつ大きなうねりに対応しきれなくなっている。
たとえ人件費が削減できたとしても、優秀な人材の流出、社員の会社に対する忠誠心やモチベーション低下など、副作用に悩まされるリスクのほうが高い。
また、既存の延長では競争に勝つことが難しくなっており、「新しいことを始める」「変化を生み出す」ことができる質の高い人材の確保も必須である。「人材こそが企業価値の源泉」と捉え、抜本的な改革に取り組むことが、大企業、中堅中小企業を問わず、経営命題となっている。