OPINION2 経済学から見た健康の価値 何が長期休業率を上げるのか? 数字が語る“要因”
企業において従業員の健康を左右するものは何か。
それを調べるため、専修大学ネットワーク情報学部講師の河野敏鑑氏は、厚生労働省が発行する、全国約1500 の健康保険組合の月次報告を入手。
データを分析し、興味深い結果を導き出した。
経済学から見た企業ごとの健康状態、そして健康経営の意義とは。
企業経営から見た健康
健康経営がこれほど注目されるようになった理由はさまざま考えられる。そのひとつは、企業経営の視点から見ても、従業員の健康増進には大いに価値があることが分かってきたことだろう。
働く人の健康増進は、長期的に見れば労働力確保につながる。結果的に株主の信頼を獲得でき、株価をはじめとする企業価値の向上に結びつくのではないか。
こうした考え方の下に経済産業省と東京証券取引所では2015年3月、「健康経営銘柄」の取り組みを開始した。
会社の体質が従業員の健康に影響する可能性は高い。風土の良さ、従業員の健康が売り上げ、利益に反映されている会社に、長期的な安定性を期待する投資家は少なくないだろう。
ただし、選定基準に“ROE(自己資本利益率)が過去3年間の業種平均を上回っていること”が入っていることにはいささか疑問を感じる。ROEの高い企業の株価が高くなるのは当たり前なのだから。
ともあれ銘柄の創設により、従業員の健康増進という観点が経営に加われば、社内の風土や仕事のやり方を改めて見直す必要性が生じる。企業にとっては組織、社内改革の良い機会となるだろう。
経済学的に見ても健康経営の意義は大きい。「生産性を向上させると共に、従業員の幸福度を高められる方法はないか」と考えた時、「従業員に健康になってもらうこと」という方法は合理性が高いといえる。
健康を左右する要因
では、企業において従業員の健康を左右する要因とは何か。それを知るため、富士通総研では2010年、実証分析を行った(富士通総研・経済研究所「健康保険組合データからみる職場・職域における環境要因と健康状態(2010)」河野/齊藤)。
分析に用いたのは、全国全ての健康保険組合(以下、健保)が厚生労働省に報告している事業状況の月次データだ。2003 年4月~ 2007 年3月までの約1500組合のデータを情報公開請求によって入手した。
ここには被保険者数、異動状況(加入者数・脱退者数)、標準報酬月額別人数、標準賞与額(※いずれも男女別)、傷病手当金、埋葬料などの件数・金額などが詳細に掲載されている。待遇や健康に関する、企業ごとの実態を語る資料といえる。
そのうえで我々は、約700項目にわたるデータを加工し、健康状態に影響しそうな10項目を取り上げた。これらを回帰分析し、「長期休業率(傷病手当金の件数/被保険者数)」との相関関係を調べたところ、次のような事実が分かった(図1)。