巻頭インタビュー 私の人材教育論 五感を研ぎ澄ます非日常体験で 全方位に気配りできる人を育む
関東でも知られるお好み焼きソースと言えば「オタフクソース」だ。
業界で初めて、お好み焼き専用ソースを開発した同社は、ソース市場が全体としては停滞傾向にある中でも売り上げを伸ばし、トップシェアを維持している。
そんなオタフクソース、他6社からなるお多福グループが、ものづくり企業として何より大切にしているのが“五感を使って人と向き合える”人づくりである。
過去最高の売り上げ
―2015年9月期決算は好調で、シェアトップを維持しています。
佐々木
おかげさまで連結で234 億円と、過去最高の売り上げとなりました。とはいえ、ソース市場自体が600億円程度と言われていますから、まだまだ成長の余地はあると考えています。
シェアについては、オタフクソース単体で見れば確かにトップではありますが、私はシェアはほとんど意識していません。それより少しでも良いものをつくることに集中してきました。どうすればより良い製品をつくることができるのか。入社以来、製造現場で12年過ごし、その後は大阪支店、東京支店などを経験し、今のポジションに就きましたが、その間ずっと意識していたのが、“社員の目線を上げる”ことです。
―目線を上げる、とは。
佐々木
良いものをつくったり売り上げを上げたりするには、スキルも含めて人材の質を高めることが重要です。だからといって精神論で「頑張れ」といくら声を張り上げても、人は動きません。人材の質向上のためには、それなりの環境整備が必要なのです。
その意味で当社は、雇用に関しては日本的経営、終身雇用にこだわっています。というのも、ものづくりは人づくりだからです。どんな仕事でも、長く勤めて、習熟度を高めてもらうことが重要だと考えています。
―人材育成は基本的に、どのようなものとお考えでしょうか。
佐々木
コンサルタントの方はよく「育・評・給を回せ」とおっしゃいます。教育と評価と給料、この3つのサイクルをうまく回すことが大切だと。ところが、実際はそう簡単にはいきません。昇給や昇格は1年サイクルですが、教育の成果はそんなに短期間で出るものではないからです。耳触りの良い言葉ですが、もう少し地道で気長な環境整備が必要でしょう。
具体的には、教育制度、評価制度に加えて職場環境の整備、そして福利厚生などを含めた制度を整えることです。特に当社は女性が多いので、そうした部分への対応がカギと考えています。
“寿退社”はどう減ったのか
佐々木
現在、人事と広報の責任者は女性、経営企画のトップも女性。ヒト・モノ・カネ・情報といいますが、うちではカネ(経理部門)以外は女性が握っている。会社のロゴマークまで女性です(笑)。
―創業当初から女性が多かったのですか。
佐々木
とんでもない。10年前、(オタフクソースの)社長就任時の幹部は、女性がわずか2人でした。女性がメインユーザーの製品をつくっているのに、これではいかんと危機感を持ちました。状況を変えるためにさまざまな制度改革に取り組みました。
中でもハードルが高かったのが、いわゆる“寿退社”です。当社は社内結婚も多い会社なのですが、結婚や出産をすると女性が辞めてしまっていました。とても痛手です。これを変えるのには、少し時間がかかりました。男女雇用機会均等法の後押しに加えて、社内制度を整えていきました(後述)。
そうした各種制度や環境整備が整い、また事業規模がある程度大きくなると、結婚しても働き続けてくれる女性が徐々に増えていったのです。