常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第7回 戦後70年の日本企業の歩みとこれから
時代の変化に伴い、日本企業はひとつの変革期に来ています。次代に向け、人と企業が共に成長する組織の在り方とはどのようなものでしょう。元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成の在り方について、提言します。
人を大切にした日本企業
昨年は戦後70年、節目の年でした。日本は今、政治、経済、社会、いずれも大きな変革期にあります。例えば、企業を見ても従来のビジネスモデルでは時代の変化に対応できなくなり、各社とも新しい未来の姿を模索しています。そこでまず、この70年間の企業のあゆみをざっと振り返ってみます。
戦後、日本経済を牽引してきたのは製造業でした。経済成長が続いた1980年代まで、企業の優劣を決めたのは、良質な製品を効率よく大量に生産し、誰もが手に入れられる価格で流通できるかどうかでした。日本製の商品は海外でも高く評価され、輸出も大きく伸び、やがて日本は世界経済のトップに躍り出ました。
その牽引力となったのが、日本人が本来持つ頭と腕と勤勉さから生まれた高度な技術レベルです。そして、それを支えたのは、終戦直後に形成されたこの国ならではの会社システムでした。
当時、日本の企業界では大きな構造改革が行われました。企業の民主化、株式所有の大衆化をめざし、巨大な力を持っていた財閥群が解体されたのです。しかし実際は、この解体によって当初の目論みとは異なる現象が起こります。同じ旧財閥系の企業同士が株式を持ち合う、企業のネットワーク化が起こったのです。それにより、外部の株主の影響をできるだけ排除し、内部の組織を維持、強化する社員中心の仕組み、つまり、株主の権利よりも社員の利害を重視する、日本独自の会社システムがつくられます。
この「働く人を大切にする仕組み」は、集団で力を発揮する風土を育み、企業の強さを生み出しました。これが日本経済に高度成長をもたらします。
しかし、90年代初めにいわゆるバブル経済が崩壊すると、日本は「失われた20年」と呼ばれる長い低迷期に入ります。一方、日本とは対照的に米国経済は80年代の不況を脱し、活気を取り戻します。そして好調期を迎えます。
その結果、株主利益を優先する米国型システムが世界的に広がり、日本企業もこれに従うようになります。四半期決算、企業統治制度などが導入され、さらに最近ではROE(株主資本利益率)経営が叫ばれるなど、社員よりも株主の利益を重視する仕組みへと変わってきたのです。