「オーセンティック・リーダーシップ」
「オーセンティック・リーダーシップ」という概念とリーダー像が、徐々に広まってきている。「変化の激しい時代におけるマネジメント層に必須」だと語るのは、そのエッセンスをエグゼクティブコーチングや組織開発の分野で取り入れている中土井僚氏だ。その解釈や背景、導入の方法等を聞いた。
「オーセンティック」とは何か
「オーセンティック・リーダーシップ」という言葉をご存じでしょうか。2003年にメドトロニック社の元CEOで、現ハーバードビジネススクール教授のウィリアム・W(ビル)・ジョージ氏が、同名の著書の中で提唱したと言われています。しかし、さまざまに研究されていて、学術的に明確な定義はまだ確立されていない印象があります。以下は、私が海外で受講したリーダーシップトレーニングの中から解釈した内容を中心にお話しします。
オーセンティック(authentic)とは、「その人本来の在り様」を表すオーセンティシティ(authenticity)という言葉に由来します。その人が本来持つ「真正なもの、持ち味」といったものが一貫して発揮されている状態こそが“オーセンティックな状態”です。
例えば、ロックシンガーのようなパフォーマーが内から湧き出る精神を言霊などにして表現する姿。また、花嫁が結婚式で両親への手紙を読みながら涙するという状態―このような、その人独自の曇りのない純粋さが体現されている状態を“オーセンティック”と呼ぶのだと、私は解釈しています※。
もちろん、人にはこれらと相反する利己的で、自分本位な“エゴイスティック”という在り様もありますが、それらはオーセンティックとは呼びません。その違いは他者への影響として如実に表れます。オーセンティックな状態は周囲の純粋な力を引き出しますが、エゴイスティックな状態は周りの利己的な態度を誘発させます。
この“オーセンティックさ”を発揮する「オーセンティック・リーダーシップ」が、企業の現場で求められつつあります。長らくビジネスの世界においてはMBAに代表される戦略・戦術といった論理性に軸足が置かれていましたが、より人間性が問われるようになってきていると言えるでしょう。
※ビル・ジョージ氏は、リーダーが“「真に進むべき方向(True North)」を意識しながら、その人らしさを発揮する状態”としているようである。『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』http://www.dhbr.net/articles/-/2774
「手放す」ことから始まる
“リーダーシップ“と聞くと「なりようもない何か」になるような感覚を得たり、足りない能力を身につけたりするという感覚を抱きやすいかもしれません。しかし、オーセンティック・リーダーシップはその人本来の姿に根ざしています。そのため、むしろこれまでの人生の中で染みついてしまったさまざまな「自分を制限づける枠組み(≒自己制限的パラダイム、メンタルモデル)」を手放してこそ、発揮されるようになります。
なぜ今“オーセンティック”か
なぜ近年、オーセンティック・リーダーシップという言葉が聞かれるようになっているのでしょうか。それにはいくつかの理由・背景があります。