CASE 1 クラレ 岡山事業所 eラーニングシステムのフル活用で 個々のキャリアから暗黙知まで 見える化を実現
化学メーカー大手、クラレの岡山事業所では、生産現場のニーズに合わせ、LMS(学習管理システム)を有効活用している。
その利用はeラーニングコンテンツの提供にとどまらず、資格試験対策や360度サーベイ、組織の状況把握にも範囲を広げている。
● 前提 複雑・煩雑な学習管理
クラレ(本社:東京・大阪)は、生活用品から工業品まで、暮らしを支える樹脂や繊維を開発・生産している化学メーカーだ。
岡山市郊外に構える岡山事業所は、1500 名以上が勤務する一大拠点である。この事業所では、自動車のフロントガラスや液晶ディスプレイに用いられるポバール樹脂や、食品包装材として使われる「エバール」樹脂、ポバールを原料とする化学繊維のビニロン、ランドセルなどに使用される人工皮革「クラリーノ」などを生産している。どの素材も世界的なシェアを誇る。
一口に素材生産と言えど、社員に求める能力には部署ごとに違いがあるという。その理由を、総務部長の尾古雅章氏はこう語る。
「素材品目により生産工程の性質が異なるためです。例えばポバールや『エバール』などのプラント型生産工程では、オペレーション室でライン全体の動きを見る管理労働が中心です。一方ビニロンや『クラリーノ』などの加工型生産工程では、文字通り『腕』がものをいう現場です。素材を手に取りながらの感覚的な工程も多いという特徴があります」
●岡山総合教育システム(OCES)
ポバールや「エバール」などの生産現場に従事するには、危険物取扱者などの公的資格をはじめ、多数の資格試験をクリアしなければならない。かつては、社員の資格取得状況や教育履歴の管理を紙ベースで行っていた。しかし、過去をさかのぼるには分厚いファイルをひもといたり点在する資料から探し出したりと、情報が分散した状態だった。
この状況を解消すべく、資格や教育記録のデータベース化に着手した。当時ポバール・エバール生産・技術開発部(以下ポエ部)に在籍していた、環境安全部/総務部課長代理の松本昌彦氏は次のように当時を振り返る。
「これまでも、人事システムによる公的資格管理などもありましたが、自己管理に委ねる部分があったり、教育記録の内容が不十分だったりしました。これまでの紙ベースの記録から脱却し、受けた教育や取得した資格の情報が蓄積され、ひもづいて管理できる『進化する記録』の仕組みづくりをめざしました」
この試みを2013 年にポエ部で開始。2015 年より岡山事業所全体の取り組みとした。「岡山総合教育システム(Okayama Comprehensive Education System: OCES)」の誕生である。
●学習記録と両輪をなすeラーニング
OCESは「会社人生における『生涯教育』のサポート」をコンセプトに、個々人のキャリアの見える化を図ることを意識した。例えば、部署・職階別に取得すべき公的資格をリスト化し、“マイページ”を見れば次のキャリアに向けて取得すべき資格が一見してわかるようになった。また上司は部下の学習状況や公的資格の取得状況を把握でき、今後取得を促すべき資格や積ませるべき経験をマネージできる。
しかし松本氏によると、OCESの機能はそれだけではないという。
「ポエ部では、以前からeラーニングを導入していました。そこで、これらの学習履歴や評価結果もOCESのデータベースに取り込み、『教育の記録』と『eラーニング』との連動を図ることにしたのです」
以下、同事業所でのeラーニングシステムの活用について見てみよう。
● 背景 OJTでは不十分
ポエ部でのeラーニング導入は2010年。松本氏の提案により、一部のセクションでの小規模な運用を開始した。なぜ、導入を決めたのか。
社内教育は、OJTが基本だ。現場・現物・現実を前に、上司や先輩たちから実務を通じて直接学ぶ。しかし、OJTは必ずしも万能な教育手段ではないと松本氏は指摘する。
「指導内容をマニュアル化していたとしても、OJTでは指導者の属人性が影響するので、どうしても取りこぼしが生じていました。また、社員には大学で有機化学を専攻していた人もいれば、商業高校出身の人もいます。背景によって『教わる側の基礎的な知識』に違いがあるため、補完する手立てが必要だと感じていました」
この他に、図1に挙げたような背景や期待・効果があった。