OPINION2 動画を使った経験学習?! 企業内教育の可能性を広げる テクノロジー活用と活性化のカギ
企業で教育支援システムやeラーニングサービスの開発に従事した経験を持つ千葉工業大学の仲林清教授は、企業がWeb関連の技術を企業内教育によく生かすには、「『授業設計』と『組織文化』がカギ」だと語る。その真意とは。
ICTの発展はまさに日進月歩だ。新技術が次々と生まれ、タブレットやスマートフォンといったデバイスも進化し続けている。にも関わらず、学校や企業教育におけるICTの活用や、広義のeラーニング(Webを介した学び)※1の導入は、数年前と比べても、さほど進んでいるようには見えない。
特に、企業におけるフォーマルな学び―体系的・組織的な人材育成の取り組みの中で、eラーニングの活用は特定のコンテンツ提供のみにとどまっているように見える。それはなぜなのか。
その原因を探る時、ひとつのヒントになるのが、ハーバード・ビジネススクール教授、クレイトン・M・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』だ。
クリステンセン氏はこの本の中で、従来の成功方法を繰り返す「持続的イノベーション」を続ける優良企業が、高い技術力を持ち、その活用が必要だと気づいていながらも、新しい技術や変化に適応できなくなるジレンマを説く。そしてそのうち、従来とは異なる価値を提供し市場を変化させる「破壊的イノベーター」組織に淘汰されてしまうのだ。その大きな原因をクリステンセン氏は、組織文化の問題だと指摘する。組織に新しい価値観を受け入れられる素地がなければ、新しいテクノロジーも生かせないからである。
※1 本稿中の「eラーニング」は、全てこの“広義のeラーニング(Webを介した学び)”を指す。
学び合う組織文化が不可欠
企業内教育に新しい技術を導入する文脈にも、同じことが言える。社内SNSの導入で考えてみよう。“仕事で困った時などに質問を投稿すると、すぐに有効なアドバイスが返ってくる”などの成功事例を聞き、導入を進める企業もあるだろう。
しかし、実際に導入されたのち、有益に活用されるかは、そもそもその会社に、“わからないことを周囲の人に気軽に質問できる”風土があるかどうかで異なる。日頃から気軽に教え合い、“協力し合うことは素晴らしいことだ”という価値観を皆が共有している企業でないと、単にSNSを導入しただけでは学び合いは起こらない。リアルな職場に“隣の部署はライバルだから口をきかない”という雰囲気があれば、ネット上でも同じような空気になる。
もし貴社でもそういう傾向があるなら、やるべきことはWeb上でのシステム構築より、むしろアナログなほうにあるのではないか。
反転授業は設計が命
話をeラーニングに戻せば、企業内教育分野でも注目されている関連トピックに「反転授業」がある。集合教育前にeラーニングやその他の教材で学習しておくというものだ。学校教育でいえば、実践例は着実に増えている。