人材教育最前線 プロフェッショナル編 企業の発展を支えるのは 社員一人ひとりの感動を伴う気づき
「自らの気づきによって得られた学びこそが本当の成長につながる」。
NECネッツエスアイ執行役員の坂梨恒明氏が人材育成施策を企画するうえで重視するのは、一方的に知識を詰め込む教育にしないこと。自発的に考え、“ そうか!”という感動をもって得られた学びこそが身につくと考えるからだ。チームでも、1つの目的を達成する場を設定すれば、自然と課題は何かを考え、解決するための工夫が生まれる……。そうした機会をどれだけ与えられるかという「個の能力を企業発展の力に変える育成」を追求している。
コスト意識を養う研修
坂梨恒明氏が企業内教育に携わったのは、NECに入社して3年目のことだ。入社後、コンピューターやプリンターを製造する府中事業場に配属され、最初の2年は給与計算業務に就いていた。そこから教育担当へと変わったのだが、初仕事は製造職の若手社員を対象とした教育の企画だった。
当時から“いい品質で安く速くつくる”ことが、モノづくりにおいて大事なことだと坂梨氏は考えていた。それを若い社員たちにどうやって浸透させるか、日々思案した。そして、思いついたのが模型飛行機づくりだった。チームに分かれ、紙と木材を材料にゴム動力でプロペラを回す模型飛行機をつくり、製作の効率化でコスト削減を体感させるプログラムだ。作業時間をきちんと計り、工数も算出、材料費と人件費からコストを計算させた。完成後は事業場内にある体育館で飛行距離を計測した。
「モノづくりにおけるコスト意識を高め、メーカーのコストパフォーマンスを追求する製品づくりを体感させたかったのです」
本格的に人材育成の道へ
教育担当1年目ですでに、創造性を発揮しオリジナルな研修を企画・実行した坂梨氏。翌年NECグループ各社向けの研修を開発・実施する日本電気総合経営研修所に異動した。ここから本格的に育成・教育の道へと進むことになる。
同研修所では2年半にわたり教育の企画、実施、運営に携わったが、中でも記憶に残っているのは部長研修だという。10人の経営幹部の講話を聴くプログラムと、コンピューターを使った経営シミュレーションを行う1週間の研修だった。
「事務局として研修をオブザーブすることで、私自身とても勉強になりました。特に講話で聞いた経営幹部の英知は今でも役立っています。入社4年にして経営幹部の生の講話を聞くという機会はなかなかありません。教育担当っていい仕事だな、と思いましたね」
一方で、NECの人事担当役員でもあった、当時の日本電気総合経営研修所の社長、江頭年男氏からは、「経営は人が全て」であり、「NECグループは人を大切にする企業でありたい」と言い聞かされていた。この言葉に影響を受け、坂梨氏は「人は学ぶことで成長し、成長した人が企業の発展を支えるのだ」と信じるようになった。まさに人材育成の重要性に気づき、興味と関心が芽生えた時期だった。
感動が伴う“気づき”
坂梨氏は、「“なるほど、そうか!”という感動と共に得た気づきだけが脳裏に刻み込まれ、身になる」と考えている。これを教育の現場で初めて実感したのが女性事務職研修だ。1986年から4 年間、玉川事業場で採用・教育を担当していた頃の話である。
当時は男女雇用機会均等法が施行され、ローカル採用である女性事務職社員の能力向上が教育テーマとなっていた。
「アシスタント業務をこなす役割だった女性たちに、意識と役割を変えてもらい、自主的にかつ創造的な仕事を始めてもらうことで組織力が格段に上がります。そうした意識改革と、その活躍の場を実際につくっていくことが課題でした」