常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第2回 量と質から日本的経営のよさを考える
「量より質」「デジタルからアナログへ」などと言われる時代です。今、よき暮らしを実現するために私たちは何を見つめればよいのでしょうか。元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成のあり方について、提言します。
質・価値を主張する大切さ
「量より質の時代」「付加価値の向上」といった言葉をよく耳にします。では、「質とは何か」「価値とは何か」と問われたら、とっさに答えられるでしょうか。答えられたとしても、10人いれば10の答えが返ってくるでしょう。ただ、明確な答えはなくても、質や価値の存在を否定する人はいません。
例えば、千円の商品があるとします。ある人は値段の割には質がいいと言い、ある人はこの質でこの値段は高いと言う。中には、みんなが買うから買うという人もいるでしょう。すなわち、質は個々で評価できるがはかれない。しかし、確かに“ある”ということです。
一方、量については金額や数量などを尺度に答えられます。しかし今、世の中が要求しているのは、量から、質・価値といった定性的なものへの転換です。したがって企業は、それぞれ自分たちの考える質や価値を定義し、自分たちの尺度で製品やサービスを評価する仕組みを持つ必要があります。
質や価値は、人の暮らしや価値観とも大きく関わっています。定性的ですが、質や価値を主張することはできます。製品やサービスは最終的にはお客さんに買ってもらうわけですから、これを価格で表さねばなりません。つまり、千円という値付けをすることが、作り手や売り手にとっては自分たちの質や価値を主張する手段なのです。その主張を、相手(お客さん)が認めれば買ってくれますが、そうでなければ買ってはもらえません。
ここを誤ると、とめどなく安売りし続けることになります。千円の価値があると思っている商品の価格を仮に半額に下げれば、一時的にはよく売れるかもしれません。しかし、自ら質を貶めてしまっているわけですから、結局、利益が出なくなります。