CASE 2 キリン 「仕事の経験値」の男女間格差を解消 ライフイベントを見据えた前倒しのキャリア形成
結婚または出産後に退職する女性と、働き続ける女性の最大の違いは、ライフイベント前の成長実感にあった──
キリンでは女性従業員を対象に早い段階で多くの業務経験をさせる「前倒しのキャリア形成」という概念を導入。
女性の離職抑止や休暇復帰後のキャリア開発に備えている。
その目的や狙いとは。
● 背景1 成長実感の有無が道を分ける
ビールなどの飲料業界というと、「男性主体」「体育会系」といったイメージを持つ人も少なくないだろう。実際、キリングループ各社の女性社員比率は、いずれも20%前後、管理職の女性比率は4%程度(共に2014 年)である。しかし、20代の総合職の女性比率は、40%近くにまで増えつつあるという。
20%と40%──この数字のギャップはどこから来るのだろうか。多様性推進室室長の尾白克子氏は、2006 年に同社が女性活躍推進を始める前の状況を、次のように振り返る。
「当時の女性従業員(総合職)の間には、戦力として活躍し始める入社5 年目頃から、結婚を機に徐々に退職してしまう傾向がありました」
総合職は転勤の可能性もあることから、「将来、仕事と家庭の両立は困難になるだろう」とひとり悩んだ末、キャリアをあきらめる女性が後を絶たなかった。「気がつくと、同期の女性社員は、片手で数えられるほどしか残っていませんでした」と尾白氏は自身の体験を振り返る。
しかし、結婚時に退職しなかった女性社員に注目すると、ほとんどが出産後も働き続けていた。その後、仕事が面白くなってくる年代に差し掛かる、ということもあるだろう。家庭以外の活躍の場があることに喜びを感じる人もいるに違いない。
彼女たちの共通点は、ライフイベント期以前に「仕事による成長実感」を得ていたことだった。つまり、女性の離職を食い止めるカギは、家庭を持っても「働き続けたい」と思えるよう、早期に動機づけを行うことだ、と尾白氏らは考えた。
● 背景2 男性リーダーの対応が壁に
ところが社内には、成長実感を損なう「壁」が存在していた。男性社員と女性社員の間で「経験値の格差」が生じていたのだ。
入社当初は男女共に、量もレベルも同程度の仕事をこなしているが、年次が進むにつれ、男女間で徐々に違いが広がっていく(図1左)。
原因の1つは、男性リーダーと女性社員のコミュニケーション不足だ。
「リーダーの中には『、こんなことを言って泣かれたらどうしよう』、『セクハラになりはしないか』などと考え過ぎてしまい、女性社員との対話に消極的になる人もいます。すると『阿あ吽うんの呼吸』で話が通じやすい男性社員との接点のほうが多くなり、無意識のうちに仕事の与え方にも偏りが生じてしまうのです」