OPINION2 選択肢は短時間勤務だけではない 働き方の自由度を高めればキャリアと育児・介護の両立は可能
短時間勤務制度を利用すれば、仕事と育児・介護の両立は可能になるが、責任ある仕事を任せてもらえなくなり、キャリアの面で不利になりがちだ。
女性活躍の問題に90年代後半から取り組んできた英国、ドイツでは、働く時間を減らすのではなく、働き方の自由度を高めて両立を図る試みが進んでいる。
数年にわたり、両国の実態を調査してきた法政大学の武石 恵美子教授が、欧州の実情と日本がめざすべき方向性について語る。
働き方の自由度に差
2010 年6月に「改正育児・介護休業法」が施行され、日本でも育児休業や短時間勤務の制度が定着しつつある。しかし、ほとんどの日本企業では、育児休業で生じるブランクや短時間勤務をハンディキャップと捉える傾向がある。したがって、制度を利用する人には第一線の仕事を任せないことが多い。
せっかく制度を充実させても、キャリア面でマイナスになるようでは、利用を躊躇する人が出てくる。また、利用したとしても、責任の軽い仕事しか任せてもらえないことで働く意欲が下がったのでは、結局は会社を去ることにもなりかねない。
私はこの問題を解決するヒントを求め、英国とドイツにおいてワークライフバランス(以下WLB)に関する調査を行ってきた。2010年にはそれぞれの国の約1000人のビジネスパーソンにアンケート調査を行い、2013年には英国企業5 社、ドイツ企業3 社を訪問して詳しいヒアリング調査を実施した。両国が進めているWLBの実態を明らかにすると共に、日本がめざすべき方向性について検討することが目的である。
調査によってまず明らかになったのは、日本と英国・ドイツでは、図1の通り、人々の働き方に大きな違いがあることだった。なお、この図における日本のデータは、2009 ~ 2010 年にかけて約1万人のホワイトカラー、それも正社員を対象に行った調査をもとにしている。
昨今は柔軟な働き方が広がっている印象を持つ人も多いだろうが、このデータを見る限り、日本では9 割以上の人がフルタイムで働いている。
一方、英国とドイツでは、フルタイム勤務の人は全体の7割程度に過ぎない。ドイツでは全体の約3 割がフレックスタイムで働いているし、英国もフレックスタイム利用者や短時間勤務者の割合は高い。また、在宅勤務の状況を見ると、英国では男女平均で8%、ドイツでも6.5%いるのに対し、日本はほぼゼロという状態である。
「英国とドイツの労働者は、日本に比べて働き方の自由度が高い」。調査結果から見えてきたこの事実は、実は両国がWLBの実現のために行っている取り組みと深い関係がある。
ワークスタイルを多様化
問題意識や社会的背景は、日本も英国・ドイツも同じだ。女性の社会進出、少子高齢化、価値観の多様化が進み、キャリア形成とライフイベントを両立させることが急務となっている。
問題は、いかに両立させるかだ。日本と欧州の最大の違いはここにある。日本では、もっぱら短時間勤務制度など特別な制度の充実によって、仕事と生活の両立を支援しようとする。それに対して欧州では、ワークスタイルの多様化によって、問題を乗り越えようとしている。英国やドイツにも短時間勤務制度はあるが、あくまで選択肢のひとつに過ぎない。