巻頭インタビュー 私の人材教育論 日本一待遇がいい企業には 「常に考える」仕組みがある
岐阜県に本社を構える未来工業は、今年創業50年を迎える。
電気設備資材の製造販売から始まり、現在ではガスや水道設備資材の製造販売にも携わる。
現在、同社を指揮するのは創業社長の息子で4代目社長となる、山田雅裕氏だ。
山田氏は、歴代社長が社是として守ってきた「常に考える」を引き継ぎ、自らも実行する。
同時に、社員の働きやすさに配慮した制度や職場づくり―残業禁止、日本一長い休暇、70歳定年制、県最高クラスの給与水準など―を続けてきた。
50年間赤字ナシという驚異の経営の背景には、どんな秘訣があるのか。
同社の人材観と人材活用、組織づくりについて聞いた。
指針はただ1つ
―社内を少し拝見したところ、「常に考える」という看板をあちこちで目にしました。
山田
「常に考える」とは社是です。50年間、未来工業はこの社是1つでやってきました。常に考え、よいと思ったことを現場の裁量でどんどんやってもらう。800人を超えるまでになった社員(本社単体)に、それぞれの能力をフルに発揮してもらうためには、自ら考え、そして動くことが必要です。管理職や会社は、社員を信じ、ただそのサポートをしていればよいというスタンスです。
―国内平均より20日以上多い休暇、原則として残業禁止、岐阜県内で最高レベルの給与水準など、待遇を充実させています。第1回の「ホワイト企業大賞」も受賞されました。
山田
社員に気持ちよく働いてもらいたい―その思いを形にしていった結果、自然と「ホワイト企業」と呼ばれるようになっただけです。
父で創業者の山田昭男が生前によく言っていました。「人は睡眠に8時間必要で、会社に8時間拘束される。残る8時間で好きなことをしてリフレッシュしなければ、次の日、笑って会社に来られない」と。
好きな時間を8時間確保してもらうには、残業があってはならない。そもそも、残業をすれば人件費はもとより電気代等、諸々の経費もかかり、会社も損なのです。
むしろ、勤務時間に集中して常に考え、動くことで効率を最大化するほうが社員も会社も得をし、幸せではないでしょうか。
―限られた時間を有効活用して成果を出してもらうためには、何が必要でしょうか。
山田
やはり現場を信じて裁量を与え、常に考えてもらうことにつきます。
一例では、当社では管理職は部下への命令は禁止です。「いつまでに何をやれ」という命令は、簡単なうえ、無責任です。まずは部下に考えてもらい、時に説得し、納得のうえで行動してもらう。最初は時間がかかっても、倦まずたゆまず説得を続けることで、部下や現場も納得して最善の行動ができるものです。
社員を信じ、任せる
―納得して動くことで、結果も変わってくるのでしょうか。
山田
そう思います。自立心が育つせいでしょうか、当社では20 代も後半になれば、営業でも一人前です。商談時の価格交渉を自ら行い、「納品のロットを500 個増やしていただけるようでしたら、あと5%値引きいたします」といった按あんばい配で、即断即決に持っていく。相手の部長さんが心配して「上役に相談せずに、本当に大丈夫かい?」と気を遣ってくれたりするそうです(笑)。
他社では「持ち帰って相談のうえ、改めて……」が一般的かもしれません。こちらはその隙に、契約まで済ませてしまうというわけです。
こういうことができるのも、いわゆる「報・連・相」や「営業日報」の記録・提出を禁止しているからです。報・連・相や営業日報には強制が伴ううえ、社員のやる気を削ぐと、当社では考えます。そもそも、単なる報告や相談、記録のために出先から1時間かけて社に戻るといった行為はムダでしょう。それより現場で即決し、その日の仕事が終わったなら、直帰でもして好きなことをやってほしい。それが次の日以降の、能力をフルに発揮する仕事につながるのです。
―社員は「日本一の待遇」でも仕事が回るように動いているのですね。
山田
その通りです。「常に考える」ためには、自ら動かなければならない。その結果、どうすればよくなるかを考え、実行に移す。日々、その繰り返しです。言い換えれば、自らの能力を常に最大限に近づけてもらうということです。