特別座談会 ~組織開発とポジティブメンタルヘルスの出会い~ みんながやる気で、成果も上がる組織づくりに人事ができること
メンバーがそれぞれの強みを活かしながらいきいきと仕事し、互いが協力し合う―
活性化した組織にはポジティブなムードが漂い、生産性も高まる。
しかし、理想の組織づくりとなると、一筋縄ではいかないのが現実だ。
今の企業の「組織づくり」の課題はどこにあるのか。
企業の実務家とメンタルヘルスのプロ、そして組織活性化の第一人者の3人が、それぞれ違う視点で語り合った。
働く環境が大きく変わった
―組織の活性化を促す方法は多種多様にありますが、まず香取さんに伺います。香取さんは「学習する組織」の考えに基づくさまざまなワークショップをされていますが、それらは組織に対してどのような効果が期待できるのでしょうか。
香取
「学習する組織」って極端な言い方をすれば「対話」なんですね。私はワールド・カフェなどいろいろな対話の手法を紹介していますが、対話を重ねることは組織と個人の関係性がよくなるうえに、メンタル不全の予防にも有効だと感じています。
島津
私の専門であるワーク・エンゲイジメントは、まさに精神的によい状態を維持することがテーマ。「健康でいきいきと働ける組織」は生産性の向上につながり、企業にメリットをもたらすという考えです。
西出
社員のメンタルヘルスの不調は生産性の低下につながり、企業にとって大きな損失です。社員や職場のメンタルヘルスをポジティブに捉えることは、経営の面から見ても非常に大切なことだと思います。
香取
「社員のメンタルヘルス」が課題視され始めた1998 年頃以降、成果主義を導入する企業が現れるなど、働く環境も変わりましたよね。
西出
そうですね。スピードと効率優先で、自分の業務で手いっぱいになる社員も多く、周囲に目を配る余裕がなくなったように感じます。
島津
パソコンのある環境が当たり前になったのもこの頃ですよね。
香取
そう。コミュニケーションの手法がずいぶん変わりました。昔は、誰が何をしていてどのような状況なのかは、わざわざ「情報共有」しなくても、電話や会話のやりとりでフロア中に知れわたるような時代でした。
島津
社内における人員構成のアンバランスがもたらす影響も考えられます。若い社員は年齢の近い先輩からアドバイスされる機会が少なく、コミュニケーションギャップの原因になっているのかもしれません。
西出
日産自動車には、「組織開発」という表現はしていませんが「よいクルマをつくるには、組織が健全でありたい」という考えが受け継がれています。そうした中、対話型のワークショップを通じたポジティブ・アプローチなどは、「よい組織づくり」につながっていると感じます。
「文脈の理解」の必要性
―働く環境の変化は、組織にどのような影響を与えましたか。
香取
以前、ワークライフバランスをテーマにしたワールド・カフェを開いた際、「日頃、職場では仕事の話しかできないけれど、今日は仕事以外の話ができて非常によかった」とコメントする人が、毎回必ず何人もいたんです。しかし、その状態って、ちょっとおかしいと思うんですよね。
西出
弊社でも、朝から晩まで1日中誰とも言葉を交わさずに自席で仕事をして、そしていつの間にか帰っている、というエンジニアもいます。そうした人が、周りが気づかないうちにメンタルヘルス不全になってしまうリスクも考えられます。
島津
そうですね。職場でのコミュニケーションの質とメンタルヘルス不全者の数には相関があるという調査報告もあります。
香取
コミュニケーションの基本といえば「挨拶」ですよね。
西出
私が在籍している事業所が大切にしている価値観に挨拶があり、ある時は役員が、朝、従業員口に立って「おはよう!」と社員一人ひとりに挨拶をしました。職場での挨拶をきっかけに、社内が言葉を発しやすい雰囲気に変わりました。
島津
なるほど。
西出
例えば、出社した部下がちょっと疲れた様子なら、「どうしたの?」って上司が声をかけると、「子どもが夜泣きして眠れなかった」といった会話が自然と生まれて。日頃からこうしたやりとりを繰り返すと、上司が部下のことを雰囲気から察知できるようになってくるんですよね。
これこそ、「学習する組織」の原点じゃないかと思います。