巻頭インタビュー 私の人材教育論 社内公用語英語化は組織を強める最大の武器
楽天は日本最大級のオンラインショッピングモール「楽天市場」を運営しながら、旅行、証券、銀行、保険、クレジットカード、通信などの多岐にわたる事業を積極展開してきた。
また海外でも、アメリカ、台湾、タイ、フランス、ブラジル、ドイツ、イギリス、インドネシアなどに次々と展開し、今では28の国と地域(日本含む)にも及んでいる。
このグローバル化を推し進めてきた原動力が、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏だ。
2010年には「社内公用語英語化」を宣言し、2012年からは社内コミュニケーションを英語に全面移行した。
数年が過ぎた現在、改めて人材育成の観点から英語化の意義を問い、人材像、育成の要点、働きやすい環境づくりの工夫なども聞く。
社内公用語英語化とその後
── 2010年に「社内公用語英語化」を宣言し話題となりました。経営戦略や理念を実現する人材を育てるという観点から英語化の意義を問うとすれば、どうなるでしょうか。
三木谷
まず前提として、英語はコミュニケーションツールでしかないと考えています。ですから、ネイティブスピーカーのように話すことは全く求めていません。英語の会話力を評価するのではなく、英語できちんと言いたいことを伝えられる点が重要です。
日本のマーケットはおよそ1億人。それに対して世界を相手にすれば70億人のマーケットが存在します。今、新興国と先進国の経済格差は急速に縮まりつつあるため、当然グローバルマーケットを見ながらビジネスを進める必要があります。かつ、日本だけでなく世界中から優れた技術や知恵を集めることもできれば、ビジネス上で非常に優位に立てます。
英語はそのためのツールに過ぎません。要は、相手に言いたいことが伝わり、ビジネスの結果が出せればいいわけです。第一、英語は毎日使っていれば自然にうまくなりますよ。
── 英語公用語化の直後、コミュニケーションにかける時間が増えたそうですが、現在はいかがですか。
三木谷
確かに当初、日本語で2時間だった役員会議が英語だと4時間かかるといったこともありました。しかし現在は、英語でミーティングしたほうが日本語で話すよりも短時間で済み、効率的です。
とにかく、わかりやすくシンプルに話すようにしています。日本語で何か説明しようとすると曖昧になりやすいのですが、英語なら「ポイントは何?」と話の核心を明確にしやすい、という利点があります。
もちろん、日本語には日本語の美しさがあり、意識すればロジカルで効率的な話し方ができるでしょう。
しかし極端に言えば、“霞ヶ関文学”と呼ばれるような、揚げ足を取られにくくする玉虫色の表現、いくつもの意味に受け取れる表現は、ビジネスでは互いの理解を妨げます。その意味で、ビジネスには英語のほうが適していると実感しています。
──それは日本語と英語の言語的特性からくるものでしょうか。
三木谷
日本語でもよほど気をつければ、ポイントをついたコミュニケーションは可能です。ただ、日本語は主語がなくても通じてしまうのに対し、英語は基本的に主語がなければ伝わりません。英語は「誰が」「何を」「どうした」と、曖昧さがなくなる言語であることは確かです。
また、楽天ではほとんどのミーティングがグローバルネットワーク上で開かれますから、英語でコミュニケーションをとることになりますが、外国人に、含みのある日本的な表現は通じません。
英語だけの人は評価されず
──そのグローバルな会議で、日本人社員はネイティブスピーカーの社員とスムーズに会話できていますか。
三木谷
全く問題はありません。日本人スタッフもヒアリングの理解力は高いです。話すほうの発音やスピードにはまだ差があります。
しかしミーティングには、北米やイギリス、オセアニア圏の、英語を母国語としない国籍のスタッフも多くいます。要するに、イングリッシュでなく“グロービッシュ”※が話されているのです。
ネイティブほど英語が流暢に話せなくても、発言権が弱まるなど周囲からの評価が下がるわけでもありません。
※グロービッシュ:意思疎通に重きを置いたシンプルな英語。元々はフランス人のジャン=ポール・ネリエールが提唱したもので、単純な英文法と使用頻度の高い英単語を使う。
── 英語力は評価の対象ではない、というわけですね。
三木谷
周りからの信頼度や発言の影響力と、英語力とはほとんど関係がありません。「英語が下手だからあの人の発言は聞くに値しない」とは誰も考えないでしょう。英語が苦手な人はゆっくり話せばいいし、そういう時は周囲の人たちもゆったり構えて聞く姿勢ができています。