人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第31回 「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」川西玲子氏 時事・映画評論家
「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」
2012年 米国 監督:アン・リー
不思議な映画である。もし誰かと一緒に観たら、その後で「あの場面はどういう意味なのか」「あのラストをどう思うか」と、語り合わずにはいられないだろう。私はこの、「語り合わずにはいられない」ということを、いい映画の必須条件だと思っている。本も歌もそうだが、対話を促すということこそ、文化の持つ偉大な力である。ただ「泣けた」というだけでは、何かが足りない。
この映画は、難破した船に乗っていた少年が虎と漂流するという、興味深い小説の映画化である。予告編で、CGを多用した華やかな映像が流れたこともあり、3D冒険映画だと思って観に行った人が多かったようだ。その結果「いい意味で期待を裏切られた」「それだけの映画じゃなかった」という驚きの声が、ネットにあふれた。
ひとことで言えば、この映画は神と生命と運命についての哲学的な寓話である。冒頭、主人公が少年時代の宗教遍歴を語るくだりは、この分野に疎い日本人には少しわかりにくい。だがこの部分が後に、重要な意味を持つのである。