連載 インストラクショナルデザイナーがゆく 第43回 秋のベルリンで感じるEU知の統合への苦悩
ヨーロッパの智慧を支える自由と独創性の危機
日一日と、秋の色が深まるベルリンにやってきた。かつて、「ベルリンの壁」があったクラシックなブランデンブルク門から、東ドイツの象徴でもあったシュールなテレビ塔に向かって、まっすぐに延びたウンター・デン・リンデンの大通りの菩提樹も、黄金色に輝いて、眩しいほどだ。
今回は、そのウンター・デン・リンデンに面して建つ、フンボルト大学のコロキウム(研究会)に出席するのが表向きの目的である。
早速、大学の中庭にあるメンザ(学食)のテラス席で、ミッドアルバイター(教授の助手)のローザと、真っ昼間からビールのグレープフルーツ割りを飲みながらの打ち合わせ。「あぁ、幸せ!」とその美味しさに思わず澄み渡った空を仰ぐ。ドイツならではのこの一瞬をたくさん味わうのが裏向きの目的である。
フンボルト大学といえば、かつてアルトゥル・ショーペンハウアーやフリードリヒ・ヘーゲルが教鞭を執り、ロベルト・コッホやカール・マルクスも学んだ名門大学。日本人には、森鴎外、北里柴三郎が留学した大学といったほうがわかりやすいかもしれない。
さすがヨーロッパの高等教育機関だなぁと思うのは、哲学がすべての学問の理論的な基盤となっていること。哲学部の中に、文学・教育学から、なんと情報科学までが包含されていて、将来ペンを執る者も、メスを持つ者も、コンピュータ・ソフトを開発する者も、みんな「人間とは何ぞや?」「より良く生きるとは?」と議論するプロセスを経なくては、プロフェッショナルとして認められない。「さすが歴史的なグローバルリーダーを育成してきた大学は、自由で独創的で、いいわねぇ」と、引き続き天を仰いでビールをゴクっと飲む私。「なーに、ノンキなこといってるのよ!
明日のコロキウムのテーマはその自由と独創性の危機でしょうが!」と喝を入れるローザ。ベルリンの若者に大人気の『アイシ―・ベルリン(ic!berlin)』社製の白いメガネフレームの奥の瞳が心なしか冷たい……。