JMAM通信教育優秀企業賞 受賞企業事例報告 札幌トヨタ自動車 人材育成の基本は自己啓発上司自らも受講し率先垂範
通信教育を人材育成に活用し、積極的に学ぶ風土を醸成している企業に対し贈呈される「JMAM通信教育優秀企業賞」。2010年は7社に贈られたが2010年11月号から3号にわたり、その取り組みを紹介している。北海道における自動車販売をリードする札幌トヨタ自動車は、「社員の成長が会社の発展につながる」との考えに基づき、自己啓発を育成の基本に据えて、四半世紀にわたり通信教育を活用。現在は同じ通信教育制度をグループ15社に展開。受講者・修了者を増やすためのさまざまな工夫を行い、高い受講率・修了率を実現している。
社員育成の50%以上を占める自己啓発
「本社に勤務する者は一.勉学修養を心掛け~中略~一.有用の材たらんことを期すべし」
これは、札幌トヨタ自動車(以下、札幌トヨタ)が掲げている社訓である。札幌を中心とする道央エリアでトヨタ車の販売・整備事業を展開する同社は、自動車販売をはじめ、レンタカーや自動車学校など、カーライフ全般にわたり幅広い事業を展開する札幌トヨタグループ15社の中核企業であり、道内の自動車販売業界におけるリーディングカンパニーだ。社訓の冒頭から勉学修養を心がけることの大切さを掲げているところからも、伝統的に社員育成に熱心な企業であることがうかがえる。
「私は4代目の社長に当たりますが、以前から、社員育成に力を入れる伝統がありました」と語るのは、代表取締役会長の相茶俊介氏。「長年にわたる育成の成果を具体的に挙げることは難しいですが、強いていえば、グループ会社の経営者のほとんどが当社の出身です。それだけの経営を担える人材が生まれてきたということが、1つの成果といえるかもしれません」
札幌トヨタの社員育成は、「集合研修・個別支援研修」(Off-JT)、「職場内研修」(OJT)、「自己啓発」(SD)の三本柱で展開されている。中でも最も重要と考えられているのが自己啓発だ。
「社員育成全体に占めるそれぞれの柱の割合を考えると、Off-JTは10%に過ぎず、50%以上を自己啓発が占めていると考えています。Off-JTは気づきや振り返りの場であり、そこで得られたことを日々のOJTに活かしていくことが基本です。しかし、その前提となるのは社員1人ひとりのマインド、やる気。それを高めるのが自己啓発であり、これを支援する重要な手段として通信教育を位置付けています」
現在の教育体系が整備されたのは、約10年前に遡る。当時社長だった相茶氏が主導して新しい人事賃金制度をスタートしたのに伴い、改めて教育ビジョンが策定された。資格定義・職能資格基準をベースに求められる人材像を設定。それに基づき、職能資格別に到達すべきレベルを明確にし、Off-JTとOJT、そして自己啓発を組み合わせて、目標を見据えてステップアップしていく仕組みを構築した(図表)。これに合わせて、通信教育講座についても職能資格制度に対応した講座の充実などの見直しが図られた。
札幌トヨタが通信教育を初めて実施したのは1980年代半ば。受講率は当初10~20%で推移していたが、当時総務部長だった相茶氏が、社内において通信教育への積極的な取り組みを指示した1995年度以降、受講率は約40%に上昇。さらに職能資格に対応した講座が導入された1998年度には約60%と半数を超えた。直近の2009年度の受講率は71.8%。自己啓発の仕組みでありながら、高い定着率を示している。
自己啓発を喚起する6つの具体策
一般に、営業主体の企業では自己啓発の通信教育制度が定着しづらいといわれている。その中で、札幌トヨタが高い定着率を実現しているのはなぜだろうか。
同社の通信教育講座は「特別推奨コース」(2009年度は80講座)と「自己啓発コース」(同61講座)に分かれている。前者は資格に対応した職能要件の向上をめざすコース、後者は資格等級に関わらず、幅広く企業人としての自己啓発をめざすコースだ。同社の通信教育制度は自己啓発の一環として実施されているため、いずれのコースも、会社の強制を受けることなく、社員が自由に希望する講座を受講できるようになっている。