連載 調査データファイル 最終回 人材を育てる制度とは年功から仕事基準の人事制度への転換
8年間続いた本連載の最終回となる今回は、これまでの連載を振り返りながら、人づくりにおける日本企業の問題点と改善策を挙げる。最も大事なのは、低成長期にいる企業では年功主義を改め、仕事基準の人事制度を導入することだ。それが教育機会を得られない若手にチャンスを与え、ゆくゆくは企業の基盤を強化することにつながる。
1.成果主義人事で揺れた日本企業
「調査データーファイル」の執筆を依頼されてから、いつの間にか100回を超えてしまい、足かけ8年にもわたる連載となってしまった。今回は最終回となるので、これまでの連載を振り返りながら、日本の企業が直面していた経営・人事問題の変遷について述べてみたい。
執筆を始めた2002年頃、企業が直面していた課題ないしは問題点は、バブル経済崩壊後の不況が予想外に長引き、抜本的な経営・人事改革を迫られていたことである。当時は、山一証券の経営破綻や、日産自動車の深刻な経営不振など、長期的取引慣行や終身雇用制などを重視した日本的経営では、この先やっていけないのではないかといった不安が拡がっていた。当時のトヨタ自動車・奥田社長が「終身雇用を守る」と発言すると、米国の格付け会社が、直ちにレーティングを格下げし、株価が急落するといった時代であった。
人事の分野では、富士通が米国企業を調査して米国流の人事システムを導入したことがきっかけとなって、いわゆる「成果主義人事」が脚光を浴びることになった。短期的な業績評価を給与に反映させ、「課長級で最大500万円の格差」といった記事が、新聞紙上を賑わしていた。
だが、「成果主義人事」が拡がるにつれてその副作用も顕在化した。日本企業の強みであった組織一丸となったチームワークが崩れ、経営・人事改革の成果が、大幅増益といった経営指標に現れなくなり、多くの企業が成果主義の修正に舵を切る、といった迷走の時代であった。
筆者も当時は外資系コンサルタント会社と一緒に人事改革の調査を行っていたが、短絡的な成果主義人事は企業の中長期的な成長力を失うことになる可能性が高いので、企業には仕事基準の職務・職責給を導入することを薦めていた。
制度設計に手間がかかるなどの理由から、仕事基準の職務・職責給を導入した企業はそれほど多くなかったが、本格的に導入した企業は、その後順調な企業経営を続けている。これに対して、年功的な人事制度を温存して小手先の人事改革で終わってしまっている企業は、経営不振に直面しているところが多い。
2.仕事基準の職務・職責給の利点
年功主義人事は、若い社員を育てるという面では、大変優れた人事制度である。目先の成果を気にせず、仕事をしっかり修得する機会が提供されるからである。だが、勤続15年以上の中堅社員以上にまで年功主義を適用すると、担当している仕事の内容と給与水準が乖離する社員が、多数現れてしまう可能性が高い。当時、ある大企業の人事調査を行ったところ、乖離している社員が約3割いるという結果になった。