第5回 どんな仕事でもクリエイティブにできる! 社員の創造性を引き出す「ほぼ日」の秘密 松本絢子氏 東京糸井重里事務所 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
人気サイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の運営や「ほぼ日手帳」などオリジナルグッズの開発、販売を手がける東京糸井重里事務所。ユニークなコンテンツを次々と生み出す「雑談が多くて楽しい職場」は、糸井さんによって巧みにデザインされた「学びに満ちた職場」でもありました。
部署も肩書きもない職場とは
「オトナ語の謎。」や「言いまつがい」など、ユニークなコンテンツや個性的なグッズを次々と生み出す「ほぼ日刊イトイ新聞(通称、ほぼ日)」(http://www.1101.com)」。このサイトを運営する東京糸井重里事務所は、しばしば「仕事が遊びになる職場」「楽しく働ける職場」として紹介されています。
しかし、楽しいだけで、あのクオリティを維持して毎日更新することは不可能。実際は少数精鋭のクリエイティブ集団なのでは?はたまた糸井さん独自のクリエイティブ育成手法があるのでは?と、その秘密を探るべく、東京糸井重里事務所を訪れました。オフィスにはテレビとソファーセットが置かれたリビングのような一画があったり、和室の会議室があったり、とアットホームな印象。あちこちに「ほぼ日」のキャラクターが置かれ、「ほぼ日」の愉しげな雰囲気そのままの職場です。
東京糸井重里事務所は現在、アルバイトを含めて47名。その内訳は、手帳、オリジナルグッズなどの物販チームが10~12名。「ほぼ日」を中心としたコンテンツ制作、編集チームが6、7名。残りはデザイナーやシステム担当、経理などやアルバイト。といっても部署はなく、各自の業務範囲の制限もないので、1人で分野の異なる複数のプロジェクトをかけもちしているのが普通なのだとか。
かけもちでいくつもの仕事を担当するという制度は「ほぼ日」立ち上げ当初、メンバー全員で執筆や更新作業をしていたことから始まったそうです。現在はある程度、担当に分かれていますが、プロジェクト毎にメンバーを募り、助け合うという仕事のやり方はそのまま残りました。
社長である糸井重里さん以下は全員同列というフラットな組織。部署も肩書もない会社!
ユニークなのはそれだけではありませんでした。
役割分担が明確でない「ゆるさ」は、2つのプラスの効果を引き出している。1つめは、役割が明確でないために、役割が冗長化し、特定の役割に縛られなくなるという効果。2つめは、自らの役割をつくり出すことで、自発的に行動するようになるという効果だ。
仕事はこなすな、流すな
畳敷の会議室でお話を伺ったのは松本絢子さんと奥野武範さん。松本さんは、「ほぼ日手帳」の新規プロジェクトなど主に物販を担当、奥野さんは、「ほぼ日」の読み物など主に編集を担当なさっています。
お2人に「東京糸井重里事務所が普通の職場と違うところは?」と、聞いてみると、「やりたいことはなんでもできる」「雑談が多い」「仕事を任せてもらえ、自分たちで決済ができる」「仕事のノルマや利益目標がない」など、どれも一般的な職場では聞かないようなお答え。いったいどういうことなのでしょうか。
●やりたいことはなんでもできる
奥野さんによると、「企画は本人が本気でやりたいといえば、ジャンルを問わずなんでもあり」。たとえば、最近の奥野さんの「鮫」企画。「大沢在昌さんの『新宿鮫』の新作の連載が始まることにちなんで、北海道まで本物の鮫研究の第一人者に会いに行き、新宿鮫大スピンアウト企画『鮫のおはなし。』という記事にまとめたんです」「新宿鮫」から鮫博士とは、聞くからにユニークな企画ですが、実際はどんな企画でも通るわけではありません。週に一度行われる企画会議では、「それって面白いの?」と徹底的に問いかけられます。大手出版社から転職した奥野さんも、初めのうちは、「いいけど、面白くないよね。『ほぼ日』でやる必要ある?」とダメ出しされてばかりだったそうです。