Part4 企業家たちは振り返る 座談会 激動の10年と人事・人材開発の今後
21世紀を迎え、ちょうど10年。日本の組織はさまざまな時代の試練に直面してきた。経営環境が厳しくなり、自律的な働き方や「個の力」が求められるように。一方で、組織の絆は薄れ、新たな人と人の結びつきが必要とされている。人事に期待される役割はこの10年間にどう変わったのか。人事・人材開発の最前線で新たな課題に挑む4氏に語ってもらった。
激動の10年間と人事の役割
司会:まず最初に、この10年間を総括していただきたいと思います。人事・人材開発において最も変化したのはどんなことでしたか。また、その変化について、どのように手を打ってこられたのでしょう。
山田(サイボウズ)
そこから生まれたノウハウを蓄積していく必要があります。
こうした経緯もあり、当初は中途採用が中心でしたが、やがて新卒者を採用するようになりました。また100年続く企業をめざす中で、人事の仕事内容も評価制度の整備から、「働き方」をキーワードとした制度づくりへと変化しています。働き方にも多様性が出てくるにつれ、ダイバーシティーを重視した制度や研修教育などの構築を徐々に行ってきたのがここ数年の人事の動きです。
ただし、研修といっても目的はビジネススキルを教えることではありません。モノづくりや売り方の哲学を教え、伝承していくためのものです。3年前に立ち上げた「サイボウズユニバーシティ」もその一環。別にだいそれた教育制度ではなく、各部門がその専門を教える社内勉強会です。ただ、当社ではグループウェアを活用し、配布資料をウェブ上で全社員が共有できる仕組みを立ち上げています。これなら勉強会のたびにゼロから資料を作成する必要がありません。いわば「秘伝のタレ」みたいなもので(笑)、もとの資料に後からどんどん味付けして、社内知を醸成していくことができます。
一連の取り組みが功を奏したのでしょうか、一時24%くらいだった離職率も今は10%程度。みんながより良い働き方や上司、部下の関係を模索する風土が生まれてきたように思います。
中村(ローソン)
ローソンでは2001年以降、会社のあり方そのものが大当社はベンチャー企業ということもあり、この10年の人事の仕事内容も、評価制度の整備から、「働き方」をキーワードとした制度づくりへと変化しています。創業当時は業績を倍々に伸ばしていくスピード成長をめざしていました。しかしその後、もっと身の丈に合った成長スピードがあるのではないか、と考えるようになりました。倍々でなくていいから、少しずつでも成長し続ける企業、100年、200年、それこそ1000年続く企業に育てたい。それには人を育て、定着させ、きく変わり、同時に人材戦略も変化しました。コンビニ業界の全盛期は2000年頃。現在は出店ラッシュで膨れ上がった大所帯をどう効率化するかが、各社の課題となっています。ローソンも全国約9600店舗、従業員もアルバイトを含め15万人を擁しており、この例に漏れません。
人事関連の問題としては、まず「アルバイトの確保」が挙げられます。景気低迷による競争激化で、人が採りづらい時代になっている。加盟店オーナーのモチベーション維持も課題です。
こうした厳しい時代背景を受けて、2001年、筆頭株主がダイエーから三菱商事に移り、翌年、現代表取締役社長の新浪剛史が就任。それに伴い、価値観の一大転換を図りました。箱モノ(店舗)を増やしていくという従来の発想から、「顧客起点」へ。つまり「お客様に合わせて売る」考え方に切り替えたのです。「ナチュラルローソン」の誕生などもその一環です。
これらのイノベーションを起こしていくのは、他ならぬ「人」。当然、人事にも、より高度な役割が求められつつあります。「質の高い人材を採用してそれで終わり」ではなく、入社後もその質を高め続けなくてはなりません。この10年間で変わったことは、まさに人材に「流動的な質」が問われるようになった、ということでしょうか。
そこで、2004年から幹部候補を対象にリーダー研修をスタート。さらに、経営層や社員向けの職種別研修、加盟店向け研修など各種教育研修プログラムを再編成。2008年には、新浪を学長とする「ローソン大学」へと教育体系を統合しています。
こうしたいきさつの背景には、トップの熱い思いがあります。「R&D(研究開発活動)、加盟店育成、人材育成の3分野には、お金もマンパワーもしっかりつぎ込んでいく」。この決意のもとに育成が行われているわけです。この10年を振り返ってみると、今まさに「人の時代」が到来しているな、と実感しますね。
変わる役割「経営企画型」人事へ
戸谷(スターバックスコーヒー)
かつて人事の主な仕事は労務や採用、教育などでしたが、今はそれだけでは足りなくなっているように思います。人材開発の分野でも、ビジネスに対するより大きなインパクトが求められる時代ではないでしょうか。
当社でも、社内顧客を自らのクライアントとし、より精度の高い人材教育を行っていく必要に迫られるようになりました。トレーニングに対するニーズもよりシビアになっており、この10年間にさまざまな手法を取り入れています。ビジネスニーズに直結した学習コンテンツを、社員が効果的・効率的に学ぶためのインストラクショナルデザインや、ビジネスゴールをめざして、職場のパフォーマンスを向上させるために、職場環境と人とのかかわり方を総合的に診ていくパフォーマンスコンサルティングなど。多くは米国の先行事例にならったものです。
ただ、悔しいことに、すべて米国発であり、日本独自のものではないんですよね。これらが本当に日本人の働き方に合っているのか、個人的にはやや疑問があります。もっと日本人独自のアプローチがあっていい。それをみんなでつくっていく時期に来ているのでは、と思うのですが。
中澤(新日鉄ソリューションズ)
当社は、もともとは新日鉄の情報部門を母体としてできたことから、すでに40年以上にわたるシステムづくりの実績を持っています。しかし、事業統合して今の会社ができたのは2001年。よって、この10年はまさに新会社の立ち上げ、さまざまな出自を持った人たちの融合、およびシステムインテグレーターにふさわしい人材づくりと人事基盤づくりに忙殺された10年でした。
そんな中で、人事として2つばかり印象深い取り組みを紹介すれば、1つは、入社3年目までの全社員を対象として毎年行っている「三者面談」(本人、上司、キャリアカウンセラー)、もう1つは、延べ20回以上にわたって行った「マネジメント集中研修」(ぶち抜き1週間、東京を離れ、仕事を離れ、自らの立ち位置や真の課題を再確認する)辺りでしょうか。
ただそれは、言い換えれば、会社発足直後の優先課題をこなすのに四苦八苦した10年でもあったわけで、そういう意味ではまさにこれから、ソリューションの名に恥じないソリューション力、事業構想力、およびそれらを裏打ちする技術力をより一層磨いていく必要があると思っています。