Part3 識者は振り返る② 下山博志 ― 「組織」から「個」への10年
人づくりの10年間を振り返ると「組織」から「個」へと、重点が切り替わったことが浮き彫りになる。組織が個人のために何かをする時代から、個人が何ができるかを問う時代へと転換したのだ。人事部は、個人が企業内だけで育つのではないと認識を改めたうえで、個人の想いを丁寧に汲み取って育てていくことが求められるだろう。
ASTDとHRD JAPANの大会テーマに見る10年
1990年代の終わりから現在まで、日本企業の人づくりの潮流を振り返るに当たり、まず、ASTD(米国人材開発機構)がこの10年間にわたって掲げてきたテーマを紹介したい(図表1)。
これを見ると、2000年初頭には「学習と成果をどうつなぎ合わせるか」「そのための制度はどうあるべきか」といったものだったが、徐々に「やる気やつながりを促してどう結果に結びつけるか」「あなたの時代が来た。未来は自分で切り拓け」というように、「会社が何かする」のではなく、「あなたがどうするか」というメッセージ性が強まってきたことが見てとれる。
一方、一貫しているメッセージとして「リーダーシップ」や「組織変革」「ラーニングデザイン」に関するテーマは常にある。特にリーダーシップに対するこだわりは、いつの時代でも非常に強い。
組織変革に関わる手法としては、ダイアログ(対話)を通して、組織や分野の境界を越え、課題や未来のあり方について話し合うホールシステムアプローチがある。『最強組織の法則』の著者のピーター・センゲが「学習する組織」(1990年代)の考え方を広め、A(Iアプレシエイティブ・インクワイアリー)やOST(オープン・スペース・テクノロジー)など、次々と個と組織の変革を促す手法が広がってきた。現在は、これらの手法を組み合わせ、企業活動、社会変革、住民運動など幅広い組織で、活用されておりさらに進化している。
“つながり感”を意味するキーワードの急増
翻って日本では、これはあくまで私見だが、ASTDで語られてきたテーマや内容が2~3年経って日本にきているという印象が強い。それはHRD JAPANのテーマを振り返るとわかる(p16-17参照)。
1990年代まで遡ると、HRD JAPANでは「21世紀」「制度」というキーワードが踊り、制度や仕組みづくりに躍起になっていたということがわかる。事例発表も制度制定に関するテーマが多かった。
2000年代初頭から掲げられた「知識経営」「人的資産」「新世紀」「リーダー育成」というキーワードは、2005年前後から「個」というキーワードに取って代わられる。組織をどううまく運営するのかと考えた時、1人ひとりが自律しなくてはいけないという意味で「個」にフォーカスするようになってきたということだ。