Column マザーハウスの人づくり
1人の若き日本女性が「途上国にある良いものや人に光を当てたい」と考え、2006年、行動を起こした。アジア最貧国に向かった彼女は、その国の人たちの労働に正当に報いる方法として、ビジネスを始めた。その実態はまさに、「日本的」モノづくりと人づくりである。
途上国から世界に通用するブランドをつくる
そのバッグを欧米や日本のあるブランドのものだと紹介されても、何の疑問も抱かないだろう。しかし、タグを見ると、「メイド・イン・バングラデシュ」であることがわかる。
アジア最貧国といわれるバングラデシュ。現地に工場をつくってバッグを生産し、日本で販売し、人気を集めている新進気鋭の会社がある。その名も「マザーハウス」。2006年、代表取締役社長の山口絵理子氏が24歳で設立し、副社長の山崎大祐氏(2007年に経営に参画)らと成長させてきた会社だ。
途上国では、多くの企業がその安い労働力を利用して、低コストでの大量生産を目的に進出している。しかし、マザーハウスは現地の人と、人と人として対等に向かい合い、彼・彼女らの創造性を刺激しながら、一からモノづくりに取り組む。山口氏は、「バングラデシュ(や途上国)の人々は、先進国の人が思うよりももっと能力を持っている」と、現地の人へ絶対の信頼と、愛情を持って接する。そうして、現地工場から日本でも通用する、質の高い製品を生み出すことに成功している。そんな同社の成長の背景には、「日本的」といえる人づくりが垣間見える。
途上国の現状を知り現地ビジネスを考案
マザーハウスでは、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」ことをミッションに掲げている。このミッションには、「途上国にある良いものや人に光を当てたい」という強い思いが込められている。
大学で開発学を学び、途上国の開発援助に携わる仕事がしたいと考えていた山口氏は、米国の国際機関のインターンとして、ワシントンで働く機会を得る。しかし、途上国の状況を知らないままに援助政策が行われている現実に違和感を感じ、自分の目で現地を見ようと、中でもアジア最貧国といわれるバングラデシュを訪れる。そこで、「ただただ生きるために、生きていた」貧しい人々の姿に衝撃を受けた山口氏は、「ここで自分にできることを探そう」と決意し、現地の大学院に進学。2年間の生活を通して、汚職が横行し、世界各地からの寄付や援助が、本当に必要としている人々に届いていない状況を目の当たりにした。「もっと健全で持続的な協力の方法はないものか」――山口氏が考えに考えて導き出した答えが、「途上国の資源を使い、途上国で、先進国にも通用するモノづくりを行う」ということだった。「バングラデシュの工場の多くは、海外のバイヤーから安いものを大量生産することばかり求められています。そして、そこで働く人々は、劣悪な労働環境の中で、うつむきながら仕事をしている。でも、ここで働く人たちにも、もっと大きな可能性があるのではないかと感じたのです。彼らが誇りとプライドを持ってモノづくりにあたり、先進国のお客様に商品として提供する。この活動なら、現地で働く人々の頑張りが正当な利益になって報われますし、国際競争力のある商品を途上国から世界に展開することができれば、経済の構造はきっと変わっていくはずだと考えたのです」(山口氏、以下同)
山口氏が資源として注目したのが、バングラデシュが世界の輸出量の90%を占める天然繊維のジュート(麻の一種)。耐久性や通気性が高く、コーヒー豆を入れる袋などに利用されてきた。
「バングラデシュの特産品である、このジュートを使い、バッグをつくろう」