Opinion Column 日本の人づくりの原点を探る 宮大工流・人材の育て方
ここまでグローバル時代で通用する日本の強みについて紹介してきた。そこで明らかになったのが、日本人は、人に対するケアができる、協調性がある、相手を思いやるといった世界に通用する強みを持っているということだ。そうした強みが生まれた源泉とは何か……。伝統を重んじてきた宮大工の世界での人材育成から、日本の人づくりの原点を探る。
6年間のお茶出しが今の自分の財産
社寺建築の魅力に惹かれ、家大工から宮大工への転身をめざしたのは21歳の時のこと。薬師寺で金堂が建立されるという情報を聞き、身一つで薬師寺を訪れたのだった。そこで見たものは、建築途中の金堂。「こんなにも荘厳な社寺を建てる棟梁はどんな人なのだろう」と身震いしたのを今でも覚えている。
本坊で尋ねたところ、この工事が西岡常一棟梁の担当だと知る。西岡棟梁は、「伝説の宮大工」と評されていた人物。西岡棟梁のご自宅へ訪問し、無理を承知で薬師寺金堂の建立に携わりたいと申し出たところ、その場で薬師寺への紹介状を書いてくださり、宮大工としての第一歩を踏み出すことができたのだった。
西岡棟梁の元で働いて一番勉強になったことは何かと聞かれるといつも答えるのが「お茶出し」の仕事だ。お茶を出すのはいつも社寺建築の中枢ともいえる「原寸場」。ここは棟梁や副棟梁が仕事の進捗確認や打ち合わせをする重要な場所であり、通常ならば若手の職人はそう入る機会がない。私はお茶を出しながら棟梁から副棟梁への指示の出し方、ミスの軌道修正の仕方など、あらゆる話を若手でありながら直接見聞きすることができた。今思えばこの時、西岡棟梁に付きっ切りで「棟梁学」を学ばせてもらったのだと思う。