巻頭インタビュー 私の人材教育論 自ら学びを見出し将来を切り拓く人材を育てる
「進研ゼミ」など、通信教育事業を中心に子どもから大人まで、日本人の「学び」を支える、ベネッセホールディングス。昨今では、中国に進出し27万人の「こどもちゃれんじ」人口を獲得している。また国内でも事業領域を介護や育児、生活に至るまでをカバーし、事業の領域と規模を積極的に拡大させている。そんな同社が今、注力している人材開発課題は?
また、日本の教育の現状をどう見つめ、どう貢献しようと考えているのだろうか。代表取締役社長の福島保氏にその考えを聞いた。
子どもたちの「自立」をサポートすることが重要
―― 現在の日本は経済的にも政治的にも閉塞感に覆われ、子どもたちにも「がんばれ」という言葉が響きにくくなっています。御社ではどのような問題意識をお持ちですか?
福島
そうですね。この20年から30年間を振り返ってみますと、子どものエネルギーやモチベーションが大きく損われてきたのではないでしょうか。
たとえば一時期、学校では、過度に競争を避けてきました。運動会の徒競走で、皆で手をつないでゴールするとか、順位をつけないといったことも聞かれました。このような教育は失うものが非常に大きかったと思います。まず足の速い子からは、1番を取るチャンス、そして「1番を取った!」という達成感や充実感を感じるチャンスが奪われました。そして、足の遅い子にとっては、悔しさをバネにする機会が奪われたのです。
生きるエネルギーやモチベーションの源泉は、健全な競争にあります。差がつくことを嫌い、表面的な協調性ばかりを気にしている間に、日本人は世の中の変化に対応し、切磋琢磨して高め合っていく力を失ってしまったように思います。子どもたちが世の中に閉塞感を感じて、エネルギーを失っているとしたら、その責任は大人にあると思います。
―― そうした問題意識を踏まえて、教育産業のリーディングカンパニーである御社は、どのようなメッセージを発しているのでしょうか。
福島
ベネッセは一貫して「自分の未来は自分でつくろう」ということを子どもたちに伝えています。変化が激しく、不安定な時代にあっても、「自分の未来は自分で切り拓くのだ」という強い意志を持ってほしいのです。そして、子どもたちの「自立」をサポートすることこそ、ベネッセの使命と考えています。私たちは福武書店の時代から、子どもたちがモチベーションを持って自ら学ぶことができるよう、さまざまな工夫をしてきました。勉強が楽しいと感じられるような教材の制作や、将来に思いを馳せることができるようなコンテンツの提供などです。子どもたちには、国語や算数などの教科の学習にしっかり取り組んでほしい。基礎学力なくして物事を考える力を養うことはできないからです。そして、勉強する中で、論理的思考力、課題解決力を身につけてほしい。これらの力が将来を切り拓くことにつながるのだと思います。
今後の社会の大きな変化のひとつはグローバル化です。子どもたちが社会に出る20年後には、グローバル化が間違いなく大きく進むでしょう。英語は当然のスキルとなっているでしょうし、国際感覚や歴史感覚も必要です。その時に忘れてはならないのは、私たちは子どもに「事実」を教えていかなければならないということです。
最近、日本史を必修科目にしようという動きもありますが、日本の伝統を引き継ぐというよりもむしろ、子どもたちが、今この時代に生まれて、自分たちがどのような状況に置かれているのかということをまず知ることが大切だと思います。日本では、近現代史、特に戦後史があまり教えられていません。日本の若者は国際感覚や歴史感覚が欠如しているなどといわれますが、近現代史を教えていないのですから当然のことです。
子どもの教育を考えることは、20年、30年後の世界を考えることです。彼らが大人になった時に身につけておく必要があることは何なのか、そこからスタートする必要があります。
文部科学省は昨年から「生きる力」を育むといっていますが、これだけではあまりに抽象的過ぎる。厳しい現実の中でしっかりと生きていくためには、少なくとも、事実をきちんと教えることから始める必要があるのです。