第29回 「みて、触れて、考える」を実践する看護師の育成法 大学病院の看護師さんたちの学び 久保田 美穂氏 東京大学医学部附属病院 消化器内科副看護師長 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
少子・高齢化と共に、医療の高度化が進む日本では看護師のニーズが高まり、医療現場では看護師不足が問題になっています。
そうした中、若手看護師の育成は看護の現場における課題のひとつ。
そこで、看護師の育成に力を入れる東京大学医学部附属病院の看護部を訪ね、看護師さんたちの現場の学びについて取材しました。
東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)は、言わずと知れた国内トップクラスの大学病院です。取材に訪れた日も、300席ほどの椅子が並ぶ広い外来棟玄関ホールには、溢れんばかりの人が来院していました。最先端の医療を求めて来院する外来患者は1日平均3000人、入院患者数は1日平均1100人。そうした患者さんたちのケアをするために、約1300人の看護師が働いています。
看護師の仕事は間違いがあってはならない仕事。投薬や注射、点滴などの医療行為は、当然のことながら、少しのミスも許されません。また、多数の入院患者のいる病院では感染予防など手順の徹底も重要です。
一方で、正解のない仕事でもあります。看護師が向き合う人びとは患者である前にひとりの人間。一人ひとりの回復への意欲や、自ら治ろうとする力、自然治癒力を引き出すのもまた看護師の役目です。そのためには、患者やその家族から、言葉にならない要望までも丁寧に汲み取っていくことが求められます。そこには絶対的な正解はありません。容体も刻々と変わるため、常に見守りながら臨機応変に対応しなくてはならない難しさがあります。
確かな知識や技術はもちろん、患者の求めるものに気づく感性や倫理観まで求められる看護師は、日々の現場でどのように学んでいるのでしょうか。
東大病院看護部がめざす看護は「みて、触れて、考える看護」。胃や食道、腸などの消化管の病気を扱う消化器内科の入院棟で働く副看護師長、久保田美穂さんと、新人看護師、石川歩さんに、お話を伺いました。
看護師の新人研修とは
看護師になるには、看護系大学、看護系短大、看護専門学校などで学び、看護師国家試験に合格した後、病院に就職するのが一般的です。石川さんは大学4 年生の夏に就職試験を受け内定、2014年2月に看護師国家資格を得て、4月から東大病院に入職しました。同期は約150 名です。
配属先は入職初日に伝えられ、新人は1週間の全体研修で、院内見学や病院の理念や機能、基本的な看護技術の研修を受け、その後1週間の病棟研修で配属先の先輩について仕事の流れを学んだ後、少しずつ患者さんを受け持ちながら現場での勤務に入ります。
東大病院では、看護職としてのキャリアアップを目的として「キャリアラダーシステム」という能力開発制度を導入しています。「キャリアラダーシステム」では、レベルⅠからレベルⅣの段階があり、新人は1年間で、レベルⅠの認定を受けることが目標となっています。