イノベーションが人材を創る
過去の成功にとらわれてしまい、企業として新たな価値を創出する人材を育成できないという悩みを抱える企業は多い。
こうした現象は、洋の東西を問わず、事業が成熟している企業に見られるものだ。
一見イノベーションを生むのは人と思いがちだが、イノベーションこそがイノベーション人材を創ると著者らはいう。
その理由とは何か、どうすればイノベーション人材を創ることができるのだろうか。
グローバル化で激変するビジネス環境
ビジネス環境はグローバル化し、多様化し、スピードが増し、複雑になり、混沌としている。
このように書き出すと、「その通りだ」という反応もあるかもしれないし、あるいは「またか」と多くのビジネス書と同じ論調に読者も飽き飽きしているかもしれない。
だが、問題はそのあとだ。市場や技術の目まぐるしい変化を捉え、ビジネスを創出するイノベーション人材が求められてくるからだ。期待されているのは、従来の延長線上ではない新しいビジネスの創出である。
このような課題から、多くの企業で新規事業開発部といった部門を立ち上げている。ところが経営者に会うと、「新規事業がうまくいかない」という嘆きともとれる悩みを聞くことが多い。そしてその悩みを掘り下げると、やはり人材の話に行きつく。
与えられた仕事をまじめにこなしたり、業務の非効率な部分を見つけて改善できる人材は見つかるものの、新たな価値を生み出すイノベーション人材は見つからない。業務の省力化の先にイノベーションがないと、新規事業を創るどころか、仕事を減らしかねない。イノベーション人材をいかにして育て、新規事業を担ってもらうのかという課題こそビジネス環境以上に混沌としているのだ。
これは何も日本企業だけの話ではない。“The world needs more Jobs”こんな言葉を聞いたことはあるだろうか。先日亡くなったスティーブ・ジョブズのようなイノベーション人材がいれば、雇用を創出できるのではないかという「ジョブズ=雇用」にかけた洒落である。多くの先進国では雇用が減少。GDPも良くて横ばいとなっており、閉塞感が漂っている。日本だけでなく、世界がイノベーション人材およびその先にあるイノベーションを求めているのである。
イノベーション人材の卵はどこにでもいる
ここでイノベーションという言葉を定義したい。日本では「技術革新」と訳されることが多いが、イノベーションとは技術に限った話ではない。たとえば、デルのパソコン直販のようなビジネスモデルや、リッツカールトンやディズニーが重視している経験価値というのもイノベーションといえる。これらの例からもわかるように、イノベーションは発明とも異なるということに注意したい。
たとえば、iPodが登場する前に携帯音楽プレイヤーは発明されていたし、iPhone以前に携帯電話でさまざまなソフトが実用化されていた。加えて、『イノベーション普及学』で有名なE.M.ロジャースが解説しているように、新しいものや考え方が普及するためにはコミュニケーションが不可欠になる。
新商品の違い、使い方、使ったことによる嬉しさやビジョンなどを効果的に伝えることができなければ市場に受け入れてもらえないことをみなさんも感じておられることだろう。何も広告宣伝が重要だといっているのではない。社内でも新しい考え方を広め、改革を進めるには良質なコミュニケーションが必要となるのだ。