連載 酒井穣のちょっぴり経営学 第13回 人的資源管理①人事制度とは何か
前回は、企業のイノベーションを守る知的財産権の中の1つ、「特許」について述べた。今回からは、「人的資源管理」を取り上げる。読者にとっては釈迦に説法になってしまうが、人的資源管理はMBA、経営学においても重要なポイントであるため、改めて取り上げておきたい。中でも今回は「人事制度」についてである。
人事制度にはさまざまな考え方があり、そのうちどれが正しくて、どれが間違っているかといった議論は不毛です。世界は変化し、企業はそれぞれ異なったビジネス環境で戦っているわけですから、一義的に「あるべき人事制度」といったものが定義できるはずもありません。当たり前ですが、最適な人事制度は、状況によって異なるのです。
とはいえ、人事制度を考える時の軸のようなものはいくつか存在します。ここでは、そうした軸について考えてみたいと思います。
人事制度の立ち位置
全ての企業は、企業理念の実現のために存在しており、企業理念とは、そこに集う人の価値観の集合体です。もちろん、利益を生み出し、従業員の生活費を捻出していくことも重要ですが、利益は結果であって、目的ではありません。
企業理念を実現するという目的のために、企業は「ヒト、モノ、カネ」という経営リソースを手段として活用していきます。中でもモノとカネはヒトに使われる、ヒトよりも下位にあるリソースです。そうであるなら、企業理念の実現にとって最も重要な「ヒトに関する基本的な考え方」を整える必要があるでしょう。
そして、企業理念を実現するための最重要の手段が人事理念、この人事理念を実現するためのものが「人事制度」というわけです。ですから、企業理念や人事理念が存在しないところに、優れた人事制度が生まれることもありません。
人事制度がないと困ることとは
持論を翻すようですが、企業理念を実現するために、人事制度があるというのは本当でしょうか?
ストレステストとして「人事制度がないと困ること」を考えてみましょう。人事制度がなかったら、まず企業理念の実現に求められる人材像が明確になりませんね。個々の人材の役割や目標もわかりません。支払うべき賃金や、昇進・昇格の条件もわかりません。こうした状況では、従業員がバラバラな意見を持ち始め、評価や賃金を巡って、個別交渉が頻発することになるでしょう。人事制度がないということは、ヒトに関するコミュニケーションのルールが存在しないということなのです。
小さな組織では、個別交渉への対応も可能かもしれません。しかし、企業がある程度の規模になれば(10名以上が目安ともいわれる)、頻発する個別交渉は、業務効率を著しく阻害します。結果として企業理念の実現も危なくなるでしょう。