連載 酒井穣のちょっぴり経営学 第14回 人的資源管理②グローバル人事の基本
企業のみならず、国家レベルでの英語教育が問題視されている日本において、特に難しい問題――「グローバル」。しかし、よく考えてみれば人類史上、このグローバル化の流れが逆流したことはない。もはや避けることができないグローバル人事・人材育成について、その筋道をシンプルに考える。
グローバル化とそれを支える人事・人材育成は、多くの方にとって頭の痛い問題だと思います。この問題に、解決策をズバッと提示できるわけではありませんが、考え方の筋道のようなものを提示できたらと思います。
グローバル人事制度:現地化 vs. 標準化
グローバル化を経営判断レベルで考えると、そこには海外拠点の現地の仕事のやり方に適応する「現地化」という選択と、拠点の場所にかかわらず、仕事の仕方を世界で「標準化」するという選択の2つがあることが見えてきます。この2つは逆サイドにある考え方で、双方を同時に実現することはできません。
現地化のメリットは、現地の市場に最適な適応ができることですが、人事という側面からは、同一企業(グループ)内において複数の制度を併設することになり、管理コストが高まるというデメリットもあります。
これに対し、標準化のメリットには、人事の管理コストが大幅に削減できることに加え、グローバルに人材を異動させやすくなったり、国籍を超えた同僚意識の醸成ができたりすることがあります。反面、現地のやり方への適応が甘くなり、現地企業との競争力が確保できなくなる可能性もあるでしょう。
この問題に対して、職制と国によってマトリクス組織を構築して管理するというグローバル・マトリクス組織のアプローチが取られることもあります。しかしマトリクス組織は管理コストを高めてしまい、またレポート・ラインの混乱と対立を生みやすく、あまりうまくいかないという説が有力になりつつあるようです。
より実務的には、共通プラットフォームとして世界で標準化する部分(たとえばジョブグレードの定義など)と、現地化する部分(たとえば給与制度など)の混合比率をコントロールしていくことになるでしょう。この混合比率の最適解は、業種や商材の特徴によって異なってくるはずです。グローバル人事制度は、この最適解を考えることなしには成立しないでしょう。