人材教育最前線 プロフェッショナル編 武道の極意もヒントに日本一の橋と人づくりを伝承
橋梁をはじめとする大型構造物や建築物の設計から、部材の製作、建設までを行う横河ブリッジ。本州四国連絡橋やレインボーブリッジなど、名だたる橋を建設した実績を持つ。その横河ブリッジ他8社の持株会社として2007年に設立された横河ブリッジホールディングスで人事部門の責任者を務めているのが、髙木清次氏だ。合気道歴35年という武道家としての顔も持つ髙木氏に、世界トップクラスを誇る橋づくりの技術を伝承していくための人材育成はどうあるべきか、また、武道の精神を仕事にどう活かすかについて、伺った。
橋づくりの要は、安全第一
横河ブリッジホールディングスグループでは、人材募集から候補者の絞り込みまでをグループ全体で行い、最終的な採用決定は各社で行っている。そのため、採用活動においては、各社の事業の特徴を考慮しながら、グループ全体の価値観を共有できる人材の採用が求められる。
全社に共通する要素として髙木氏が重視しているのが、コミュニケーション能力だという。
「大きな構造物をつくる場合、特に意識しなければならないのは、“事故が起これば即、死に至る”ということです。つくった橋が落ちれば、重大な被害をもたらしますし、工事中に不手際があれば、自分たちの命を危険にさらすことになります。そうした事態を招かないためには、本人が注意するだけでなく、周囲の人たちとも協力し、危険を予知し合うことが大切です」
鋼橋をつくるプロセスは、設計、工場製作、現場での施工に分かれているが、それぞれの目から他の部署の仕事を見て、問題があれば伝え合うことが大切だと髙木氏は強調する。
「例えば、工場でつくっている部材を施工現場の人間の目から見ておかしいということがあれば、それを指摘する。当事者が気づきにくいことをお互いに指摘し合うことで、事故を未然に防ぐのです。そのためには、相手に問題を指摘できる力と、相手の指摘を受け入れる寛容さが必要になります。これを簡単にいうと、『コミュニケーション能力』ということになります」
橋への興味と素直さが必要
社員や採用希望者のコミュニケーション能力を見る時、髙木氏は、2 つの要素に着目する。
1つは、“橋に対する興味”だ。
「橋をつくるために必要な設計、製作、施工の各プロセスは、いずれも地道な作業で、根気が必要です。時には、投げ出したくなることもあるでしょうが、今担っている仕事が、やがて橋になるということを理解し、そのことに喜びと誇りを感じられれば、地道な仕事にも前向きに取り組めます。そうした姿勢が、問題を見つけ出す目を養い、指摘する態度を育てるのです」
そしてもう1つ、コミュニケーション能力を見るうえで重要なのは、「素直さ」だという。
「当社には熱い人間が多く、指導したり、問題を指摘したりする時には、“バカヤロー”といった、少々荒々しい言葉が出ることもあります。しかしそれは、決して事故を起こさないという強い決意の表れなのです。ですから、それを理解し、厳しい言葉に対しても聞く耳を持てるような素直さが求められます」
コミュニケーション能力というと、話上手な人を想像しがちだが、そうではないと髙木氏。